AIは「SI」に変わる?トランプ政権の呼称変更の理由と米中首脳会談で見えた温度差

AIは「SI」に変わる?トランプ政権の呼称変更の理由と米中首脳会談で見えた温度差

📌 この記事の要約

  • トランプ政権はAIを「Super Intelligence(SI)」と呼び始めた 「Artificial」は知能を偽物のように聞こえさせるとして、外交分野や一部の政府文書で呼称変更が進んでいます。

  • 米国と中国の公式文書では呼び名が分かれた 米国は「SI Dialogue」、中国は「AI Dialogue」と表記し、中国側は米国の呼称を尊重するとしながら自国での採用は明言していません。

  • 研究用語の「superintelligence」とは意味が異なる 従来は人間を大きく上回る知性を指す言葉であり、現在の生成AI全般を指す名称ではありません。

  • 呼び名は違っても危機時の連絡チャンネルでは合意した 米中はAIインシデントを知らせ合う二国間チャンネルの設置で一致しました。

 2026年9月25日、米ホワイトハウスが米中首脳会談のファクトシートを公表しました。パンダ2頭の貸与や米国産石炭の輸入に加え、AIの呼び名まで記されています。ホワイトハウスは、ドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が、Artificial Intelligenceに代えて「Super Intelligence(SI)」と呼ぶことで合意したと発表しました。

 ただ、中国政府が翌日に発表した成果文書では、同じ対話の枠組みに「AI」が使われています。両国の文書を照らし合わせ、呼び名の違いと合意の中身を解説します。

米中首脳会談に出席した習近平国家主席夫妻とトランプ米大統領夫妻習近平国家主席夫妻とトランプ米大統領夫妻。首脳会談ではAIを巡る合意も発表されました。画像は米ホワイトハウスより。

最初の候補に「Super Intelligence」は入っていなかった

 トランプ氏は9月19日、Truth SocialでArtificial Intelligenceに代わる名称を問う投票を行い、「Superior Intelligence」「Extreme Intelligence」「Supreme Intelligence」の3案を提示しました。現在採用されている「Super Intelligence」は、この時点では候補にも入っていませんでした。

 翌20日には「Supreme Intelligence」を候補から外し、「Superior Intelligence」と「Extreme Intelligence」の2案で再投票しました。さらに21日になると、それまで候補になかった「Super Intelligence」を加え、「Super Intelligence」と「Superior Intelligence」のどちらがよいかを問う投票を実施しています。同日の別の投稿では、すでに「AI or, SI(SUPER INTELLIGENCE)」という表現も使いました。名称候補はわずか3日間で何度も入れ替わっていたのです。

 翌22日の国連総会では、トランプ氏が「Artificial」という言葉は知能を偽物のように聞こえさせるとして、今後は「Super Intelligence」と呼ぶと宣言しました。この発言が出たのはAI技術そのものを説明している場面ではなく、国際的なAI統治の枠組みを拒否する考えを述べる中でした。続けてAIの危険性を訴える主張を批判し、AI開発を抑制しない考えも示しています。

 政府内でも実際に動きが始まりました。国連演説があった22日、国務省の国際機関局では「Change in Nomenclature AI to SI」という件名のメールが職員に送られました。同局の文書や発言、報道向け資料でAIをSIに置き換えるよう指示したものです。

 ただし、政府内の表記が一斉に切り替わったわけではありません。9月29日時点でもホワイトハウスの技術政策ページは「Lead the World in AI」という名称で、本文にもArtificial IntelligenceやAI Action Planという表記が残っています。現時点では、外交分野や一部の政府文書でSIへの置き換えが先行している状態です。

Truth Socialで実施されたSuper Intelligenceの名称投票最終投票では「Super Intelligence」が65%を獲得しました。画像はTruth Socialより。

米国は「SIで合意」、中国は最後まで「AI」と表記

 ホワイトハウスは、新たな協議の枠組みを「U.S.-China Super Intelligence(SI)Dialogue」と名付けました。次回の協議を11月までに開き、SIインシデントに関する二国間の連絡チャンネルを設けるとも発表しています。

 ところが、中国外交部が翌26日に発表した「8つの成果」では、同じ仕組みが「中美人工智能対話」、英語版では「China-U.S. AI Dialogue」と記されています。インシデントについても「人工智能事件」「AI incidents」で、Super IntelligenceやSIという表現は使われていません。対話の実施と連絡チャンネルの設置は両政府の発表に共通します。ただし、次回の時期は米国側が「11月まで」、中国側が「11月」と記しており、対話の名称も異なります。

 中国外交部は同日、まさにこの違いについて質問を受けています。その回答は、米国側の立場を重視し「その呼称の選択を尊重する」というものでした。中国自身がSIという名称を採用したとは述べておらず、呼称については今後も議論を続ける考えを示しています。

中国外交部が公表した米中首脳会談の成果文書中国外交部は同じ枠組みを「AI Dialogue」と表記しました。画像は中国外交部より。

研究用語の「superintelligence」とは用法が異なる

 そもそもArtificial Intelligenceという名前には長い歴史があります。ジョン・マッカーシー氏らが1955年に作成したダートマス会議の提案書で「artificial intelligence」という言葉が使われ、翌1956年の研究会をきっかけに研究分野の名称として定着しました。提案書は、人間の学習や知能の特徴を十分に正確に記述できれば、機械でシミュレーションできるという考えを掲げています。少なくともこの提案書では、「artificial」を「偽物」という意味で説明しておらず、人間の学習や知能を機械で再現する研究を指す言葉として使っています。

 一方、「superintelligence」は研究分野ですでに特定の意味を持つ言葉です。哲学者のニック・ボストロム氏は、人間の最高レベルの知性を科学的創造性や一般的な判断力、社会的能力など、ほぼあらゆる分野で大きく上回る知性として定義しています。現在使われている生成AI全般を指す名称ではなく、AIが将来到達する可能性のある非常に高い能力水準を説明する言葉として使われてきました。

 日本では「SI」という略語にも先客がいます。IT業界ではシステムインテグレーションをSI、その事業者をSIerと呼んできました。「SI人材」「SI市場」と書いたとき、それがSuper Intelligenceなのかシステムインテグレーションなのか、文脈を確認する必要が出てきます。このため日本語では、「米政府がSIと呼ぶAI」のように補足し、従来の「超知能」と区別する方が誤解を避けやすいでしょう。

超知能の定義を示したスタンフォード大学の公開資料従来の「超知能」と今回の「AIの別名としてのSI」は意味が異なります。画像はスタンフォード大学公開資料より。

呼び名は分かれても、米中はAIの連絡チャンネルで合意

 SIへの名称変更をめぐるトランプ氏の発言は、AIの能力向上をどこまで急ぐべきかという議論が高まる中で出てきました。Anthropicのダリオ・アモデイCEOは9月12日に公開した「We Must Pace the Frontier」で、AI開発を停止するのではなく、安全対策が能力向上に追いつけるようフロンティアモデルの進歩を意図的に調整すべきだと主張しました。第三者による評価や民主主義国間の協調、さらに国際的な連携を進める案も示しています。

 トランプ氏は9月21日の投稿で、AIが人類に深刻な危険をもたらすという議論を強く批判し、AIの発展を抑えるつもりはないと表明しました。安全対策が追いつくよう開発速度を調整するアモデイCEOの提案とは、方針に隔たりがあります。

 それでも、危機への備えでは米中が歩み寄りました。会談に先立つ協議で、スコット・ベッセント米財務長官は中国の何立峰副首相に、国家安全保障に関わるAIインシデントを相互に知らせる仕組みを提案しています。

 会談前、マルコ・ルビオ国務長官はこの構想を冷戦期のホットラインになぞらえ、危険なAIインシデントについて米中がすぐに知らせ合えるようにするものだと説明しました。両政府の発表では連絡チャンネルの設置が示されましたが、通知の対象や手順は明らかにされていません。

米中首脳会談に出席した両国の代表団米中はAIインシデントを連絡する二国間チャンネルの設置で一致しました。画像は米ホワイトハウスより。

 AIをSIと呼び替えたからといって、技術の中身が変わるわけではありません。それでもトランプ氏は、SNSで候補を示し、投票を繰り返し、最後は国連の演壇で新しい名前を宣言しました。名称を変えることで、その技術にどんな意味を持たせ、どんな未来像と結びつけるかまで変えようとする。今回のSIは、新しい技術用語というより、AIをどう語るかまで自ら決めようとするトランプ政権らしい動きに見えます。

 対照的に、中国はSIという呼び名を採用せず、従来通りAIと呼びながら、危機時の連絡チャンネルには合意しました。米国はSI、中国はAI。それでも、問題が起きたときには連絡を取り合う。AIをどう呼ぶかでは折り合わなくても、危機時に連絡を取り合える仕組みを確保したことには、大きな意味があります。

AIとSIの呼称および超知能との違いをまとめた解説画像AI、SI、研究用語としての超知能の違いをまとめた解説画像です。

星川アイナ
【著者プロフィール】 星川アイナ ほしかわ あいな AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。

柳谷智宣
【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。