- 【著者プロフィール】 星川アイナ ほしかわ あいな AIライター
- はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。
- 【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
- ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。
📌 この記事の要約
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2.4兆パラメータのQwen3.8-Maxが登場、Maxクラス初の重み公開へ
Alibabaが2026年8月3日にフラッグシップ「Qwen3.8-Max」を公開。総パラメータ2.4兆・コンテキスト100万トークン規模で、これまで非公開だったMaxクラスの重みを翌週に公開すると明言した。 -
オープンウェイトの上位を中国勢が占める現在地
Moonshot AIのKimi K3(2.8兆)やZhipuのGLM-5.2など、中国のスタートアップと大手が並走。ただし量と収益は別で、Anthropicは処理量1割強で売上の約46%を占めるとされる。 -
MoEと長コンテキスト効率化で兆パラメータ級を現実的コストに
Qwen3.8-Maxは2.4兆のうち1トークンあたり約4%しか動かさない。各社が長コンテキストの演算量削減にも注力し、100万トークンを実用コストで扱う段階へ移った。 -
自社運用の利点と、増える確認事項
データの置き場所を自分で管理できる一方、ライセンスの商用条件や安全対策の運用が自社側に移る。用途ごとにリスクを見極めて使い分ける姿勢が標準になりつつある。
2026年8月3日、AlibabaのQwen Teamがフラッグシップモデル「Qwen3.8-Max」の提供を始めました。総パラメータは2.4兆、1トークンあたりに動くアクティブパラメータは95B、扱えるコンテキストは100万トークンという規模です。
業界を驚かせたのは、これまで重みが公開されてこなかった「Max」クラスのQwen3.8-Maxについて、Alibabaが翌週に重みを公開すると明言したことでした。7月末にはMoonshot AIが2.8兆パラメータの「Kimi K3」の重みをすでに公開しています。兆パラメータ級の最先端モデルを手元にダウンロードできる時代が、想像よりずいぶん早く来ました。今回は、中国AIとオープンウェイトの最前線について解説します。
Alibabaは2026年8月3日にQwen3.8-Maxの提供を始め、Maxクラスとして初めて重みを公開すると表明しました。画面はAlibabaのウェブサイトより。
2.4兆パラメータのフラッグシップが重み公開に向かう理由
Qwen3.8-MaxはMoE(混合エキスパート)モデルで、テキストのほか画像や動画も入力として受け付けます。コンテキストウィンドウは100万トークン規模で、最大出力は13万1072トークン、思考に割ける長さは最大26万2144トークンです。
Alibabaが今回売りにしているのは、単発の回答品質よりも長時間の自律作業です。事前学習の規模を積み増すだけでなく、実環境での強化学習を前面に打ち出しました。公開された検証事例がなかなか面白いところです。
コマンドライン用のツールをゼロから作らせたケースでは、約16日間の自律実行で265のコミットや127のプルリクエスト、151のイシューを生み出しました。論文の追試では約125時間かけて約7600行のコードを書き、33回のGPU学習を回して主要な結果6つを再現し、AIME24では元の手法を2.7ポイント上回っています。デジタル回路の設計では約500ターンを費やし、最初に動いた回路の8298ゲートを678ゲートまで削り込みました。365日間の仮想EC運営シミュレーションでは、10万元の元手を4.16倍の41万6252元まで伸ばしています。
ベンチマークではTerminal-Bench 2.1の86.6やSWE-bench Proの67.7、OSWorld-Verifiedの86.1といった数値を公表しました。いずれもAlibaba自身による評価値です。Arenaのビジュアル部門ではClaude Fable 5に次ぐ2位に入る一方、テキスト部門ではFable 5と複数のClaude Opus系モデルに続く位置でした。
肝心の重みは、Hugging FaceとModelScopeで公開すると予告された段階です。8月9日時点ではまだ公開されておらず、ライセンスの本文も明らかになっていません。大規模な商用利用者に収益分配を求める仕組みを導入する方針とも報じられており、無条件に自由と読むのは早計です。
Qwen3.8-Maxのスコアはいずれも自社評価による値で、評価環境の違いも表の脚注で注記されています。
オープンウェイトの上位を中国勢が占める現在地
重み公開に動いているのはAlibabaだけではありません。2026年のオープンウェイト競争は、中国のスタートアップと大手が並走する構図になっています。
Moonshot AIのKimi K3は7月16日に発表され、7月27日には重みも公開されました。総パラメータ2.8兆、アクティブ104B、896個のエキスパートのうち16個を選ぶ構成で、100万トークンのコンテキストに対応し、テキストと画像を同じモデルで処理します。公開時点で史上最大のオープンウェイトモデルであり、同社の評価ではTerminal-Bench 2.1で88.3、GPQA Diamondで93.5を記録しました。
Zhipu(Z.ai)のGLM-5.2は6月に約753BのチェックポイントをMITライセンスで公開し、地域制限も設けていません。DeepSeekは7月31日にV4-Flash-0731を同じくMITで出しました。MiniMaxのM3は428Bの総パラメータのうち23Bが動く構成で、こちらも100万トークンに対応します。
ただし、量で勝つことと稼ぐことは別の話です。同じOpenRouter上で、Anthropicのモデルが処理するトークンは全体の12%前後にとどまる一方、プラットフォームで支払われた金額の46%前後を占めているとされます。1割強の処理量で売上のほぼ半分を持っていく計算です。中国製のオープンウェイトモデルは主要なクローズドモデルより60%から90%安いとOpenRouterは説明しており、この価格差が市場を分けました。大量に回す仕事は安いモデルへ流れ、単価の高い仕事は高いモデルに残ります。
性能の差はどうかというと、Epoch AIが2026年1月1日から5月28日までを対象に日ごとの比較を行っています。その日時点で最良のオープンウェイトモデルが、クローズドの最先端から何日遅れているかを追った結果、平均は4か月でした。同社の総合指標であるECIに換算すると8ポイントで、GPT-5とGPT-5.5のあいだにある差とほぼ同じ幅です。2023年1月から2025年10月までを対象にした前回の分析では平均3か月だったので、差はわずかに広がりました。
OpenRouterでは中国系モデルの利用が急増し、処理トークン量で米国系モデルを上回るまでになっています。
兆パラメータ級を現実的なコストで動かすMoEの設計
兆パラメータ級の巨大モデルを現実的な計算量で動かす鍵がMoEです。モデル全体を毎回動かすのではなく、入力に応じて必要なエキスパートだけを選んで計算します。Qwen3.8-Maxは2.4兆パラメータのうち1トークンあたり95B、割合にして約4%しか動きません。Kimi K3はさらに極端で、896個のエキスパートから16個、およそ1.8%を選ぶだけです。多数の専門家を用意し、入力ごとに必要な担当者だけを呼び出して働かせるような仕組みです。
長いコンテキストを扱うコストにも各社が手を入れています。GLM-5.2はIndexShareという仕組みで4層ごとにインデクサーを共有し、100万トークンを扱う際の演算量をトークンあたり約3分の1に抑えました。MiniMaxはM3で独自のスパースアテンションを導入し、前世代と比べてトークンあたりの計算量を20分の1に減らし、入力処理を9倍超、出力生成を15倍超に高速化したと説明しています。100万トークン対応を仕様表に書く段階から、100万トークンを実用的なコストで処理する段階へ、競争軸が移りました。
効率化はAPI価格にも表れています。同時期に登場したDeepSeek V4-Flashは、入力100万トークンあたり0.14ドル、出力0.28ドルという低価格で提供されています。
ただし、重みが公開されているからといって、個人が手元の環境で簡単に動かせるわけではありません。GLM-5.2の公式リポジトリは約1.51TB、Kimi K3も約1.56TBあります。Qwen3.8-Maxはまだ重みが公開されていないため実際の配布サイズは不明ですが、一般的な単一GPUで扱える規模ではなく、大容量メモリを備えたマルチGPU環境が前提になります。
少量の利用ならAPIを使ったほうが安く済む場面は普通にあります。兆パラメータ級とは対照的に、OpenAIのgpt-oss-120bは総パラメータ117Bでアクティブが5.1B、80GBのGPU1枚に載ります。モデルのオープンさと実際の導入しやすさは、分けて見る必要があります。
GLM-5.2の重みはHugging Face上で合計1.51TBあり、282個のsafetensorsファイルに分割して公開されています。
自社環境で動かす利点の裏で増えている確認事項
企業にとっては、モデルを自社の管理下に置けることが大きな利点になります。外部のクラウドAPIを利用する場合は、契約主体やデータの保存・処理地域、学習利用の有無などを確認する必要があります。重みを入手できれば、オンプレミスの閉域網や自社が契約するクラウドに載せて動かせるので、データの置き場所を自分でコントロールできます。
一方で、確認すべき項目は増えました。まずライセンスです。GLM-5.2はMIT、Mistral Large 3やgpt-ossはApache 2.0で、商用利用に条件を付けていません。これに対してKimi K3やMiniMax M3は、売上規模に応じて条件が変わる形をとっています。年間または連続12か月の売上が2000万ドルを超える事業者には、開発元との個別契約や書面承認を求め、それ以下でも通知やモデル名の表示を義務づけます。同じ「重みが公開されている」でも、そのまま製品に組み込めるものと、法務の確認が要るものが混在しています。
安全対策の運用が自社側に移る点にも注意が必要です。クラウドのAPIを使っている間は、危険な使われ方を止めるのは提供元の仕事です。重みを手元に置いて動かす場合、その役割は動かしている側に移ります。モデルに組み込まれた安全機構は追加学習で外れることが知られており、実際に英米の政府機関による評価でも、攻撃を指示された際にこの機構が働かない例が確認されています。モデルが断ってくれる前提ではなく、アクセスできる範囲やログの取り方など、モデルの外側で線を引く設計が求められます。
重みが公開されていても、商用利用の条件はモデルごとに大きく違います。画面はKimi K3のライセンスです。
リスクを見極めながら使い分ける現実的な導入方針
実務では、用途を分けて考えるのが現実的です。顧客と直接やり取りするチャットボットや、説明責任の重いコア業務では、ライセンスや学習データの不透明さが残るモデルを主役に据えにくいでしょう。一方、社内ログの大量解析や翻訳、開発環境でのコード生成補助、研究開発の試作といった領域なら、これほどの性能を自社の閉域網で動かせる価値は相当に大きいはずです。
選定の基準も変わるでしょう。総パラメータの大きさより、アクティブパラメータや必要メモリ量、ライセンス本文の商用条件、自社のツール構成で実際に測ったスコアを見るほうが役に立ちます。ベンチマークは実行環境が違うだけで数ポイント動くため、1ポイント差を勝敗として扱わないほうが賢明です。
次の見どころは、Qwen3.8-Maxの重みとライセンスが実際にどう出てくるかです。先に触れた収益分配の仕組みが、どのような条件に落ち着くのかが焦点になります。特定の国や企業だけが最先端を独占しない流れは、使う側にとって歓迎できます。リスクの所在を見極めたうえで賢く使い倒す姿勢が、これからの標準になっていくことでしょう。
