AIは仕事をどこまで変える?Gartnerの予測から読む2年後・10年後の働き方

AIは仕事をどこまで変える?Gartnerの予測から読む2年後・10年後の働き方
星川アイナ
【著者プロフィール】 星川アイナ ほしかわ あいな AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。

柳谷智宣
【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。

📌 この記事の要約

  • 企業向けAIは主流採用へ近づいている 生成AI、日常型AI、AIエージェント管理プラットフォーム、企業向けAIアシスタントは、主流採用まで2〜5年とされています。

  • AI活用の主役が現場へ移る ノーコード・エージェント・ビルダーの普及により、業務部門が自らAIエージェントを作る流れが強まります。

  • エージェント型AIは期待が先行している AIエージェントを導入済みの組織は17%ですが、60%超が今後2年以内の導入を見込んでいます。

  • 次の焦点はAI前提の職場設計 AIワークスペース、Computer Useエージェント、AI支援型スキル管理を含め、企業には活用と統制の両立が求められます。

2026年8月5日、ガートナージャパンが『日本における未来のデジタル・ワークプレースのハイプ・サイクル:2026年』を発表しました。AIエージェントをはじめ、働き方や企業と従業員の関係を変えるテクノロジが1枚の図にまとめられています。

図にはさまざまな項目が並んでいますが、今回はAIに関係するものを抜き出して解説します。主流採用に届くまでの年数が短いものから長いものへ順にたどると、企業のAI活用が向かう先が見えてきます。

読み方の注意を1つ。ハイプ・サイクルの山の高さは、性能や重要度を示すものではありません。世の中の期待がどれだけ盛り上がっているかを表す指標です。ピークにあるから優れている、谷にいるから失敗した、と読まないよう注意が必要です。

日本における未来のデジタル・ワークプレースのハイプ・サイクル2026年版ガートナージャパンが2026年8月5日に発表したハイプ・サイクルです。ここからAI関連の項目を年数順に読み解いていきます。

生成AIから企業向けAIアシスタントまではすでに日常業務に入り込んでいる

最初のグループは、主流採用まで2年から5年とされる技術です。生成AIやその日常利用にあたる日常型AI、AIエージェント管理プラットフォーム、企業向けAIアシスタントが並びます。

生成AIは『ChatGPT』や『Gemini』、『Claude』を思い浮かべれば十分でしょう。日常型AIは、その生成AIが文章作成や検索、要約、アイデア出しといった作業に溶け込んだ状態を指します。使っている自覚のないまま日常に入り込んでいる段階ですね。

なじみが薄いのはAIエージェント管理プラットフォームだと思います。社内で動くAIエージェントが増えると、誰がどのエージェントを作り、どのデータに触れ、どんな判断を下したのかを把握する仕組みが要ります。エージェントを一元的に登録し、権限や稼働状況を統制する土台にあたります。

企業向けAIアシスタントは、『Microsoft 365 Copilot』や『Gemini Enterprise』のように、業務システムやドキュメントとつながった状態で従業員が使うAIです。個人が便利に使う道具から、会社が配る仕事の道具へ移ってきたわけです。Gartnerは、AIエージェントの適用範囲がオフィス・ワークから工場や店舗などのフロントラインへ広がり、同時にガバナンス整備の必要性も高まっていると指摘しています。

企業向けAIアシスタントのGemini Enterprise app企業向けAIアシスタントは、社内の業務データとつながった状態で従業員が使うAIです。

ノーコード・エージェント・ビルダーがAI活用の主役を現場へ移す

ここから先は、主流採用までにもう少し時間がかかるとされる技術です。最初に登場するのがノーコード・エージェント・ビルダーで、プログラミングの知識がなくても自然言語やGUIの操作だけで業務用のAIエージェントを組み立てられる環境のことで、『Microsoft Copilot Studio』のように、すでにサービスとして形になっているものもあります。

変わるのは、AI活用の主体です。情報システム部門が用意したものを現場が使う形から、現場が自分で作る形へ移ります。Gartnerも、ソフトウェアのSaaS化やノーコード・ツールの進化、IT部門の人員逼迫を背景に、ビジネス部門がテクノロジを主体的に選定・活用する動きが本格化していると説明しています。裏側では管理外のAIが増えるシャドーAIの問題も広がるため、作りやすさと統制のバランスが次の課題になります。

Microsoft Copilot Studioのノーコード・エージェント作成画面ノーコードのエージェント作成ツールが、AIを作る側の裾野を広げています。

複数のAIを束ねた仕事環境として広がるAIワークスペース

次に位置するのがAIワークスペースです。Gartnerはこれを、従業員向けAIのポートフォリオと位置付けています。

いまのAI利用は、『ChatGPT』を開く、『Copilot』を開くといった個別ツールの起動が中心です。AIワークスペースはその一段先を指します。文章を書くAIや調べ物をするAI、会議の内容を整理するAI、指示した作業を実行するエージェントを、ばらばらのアプリではなく仕事環境全体としてまとめて提供する考え方です。AIを1つのアプリとして開く時代から、AIに囲まれて働く環境へ。どのAIに何を任せるかという設計の問題に踏み込む段階といえます。

エージェント型AIでは期待が実態を大きく上回っている

エージェント型AIは、生成AIとの違いを押さえると分かりやすくなります。生成AIは指示を受けて答えを返す仕組みが基本です。エージェント型AIは、目標を与えると必要な手順を自分で組み立て、ツールやデータを使いながら複数のステップにまたがる仕事を進めていきます。

図の上では過度な期待のピーク期に位置します。Gartnerが2026年4月に公開したエージェント型AIのハイプ・サイクルでは、2026年のCIOおよびテクノロジ・エグゼクティブ向け調査でAIエージェントを導入済みの組織が17%にとどまる一方、60%超が今後2年以内の導入を見込むと示されました。同じ調査で測った先進技術のなかで最も急な導入曲線だといいます。話題は先行していますが、主流採用までは5年から10年。この開きが、そのまま期待の過熱ぶりを表しています。

Gartnerのエージェント型AIハイプ・サイクル2026年版エージェント型AIは過度な期待のピーク期にあり、導入済みの組織は17%にとどまります。

画面を見て人間と同じようにPCを操作するComputer Useエージェント

今回のハイプ・サイクルで、いちばん未来を感じさせるのがComputer Useエージェントです。従来の自動化はAPIでシステム同士を直接つなぐ方式が主流でしたが、Computer Useエージェントは人間と同じように画面を見て、マウスを動かし、キーボードで文字を入力します。ブラウザを操作して情報を集めたり、フォームに入力したり、複数のアプリをまたいで作業を引き継いだりする使い方が想定されます。APIのない古い業務システムにも手が届く点が強みです。

すでに主要なAIベンダーが同種の機能を提供しているにもかかわらず、図の上ではまだ黎明期に置かれ、主流採用まで5年から10年とされています。デモを見ると未来が到来したように感じますが、業務で常用するには精度や速度、権限の管理など詰めるべき点が残っています。

AI支援型スキル管理は誰に何ができるかをAIに把握させる

今回抜き出したなかで唯一、主流採用まで10年以上とされているのがAI支援型スキル管理です。従業員の肩書や所属部署だけを見るのではなく、これまでの経験や作った成果物、学習の履歴などから、その人が持つスキルをAIが把握し、更新し続ける仕組みを指します。人事データベースの手入力に頼らず、実際の仕事の記録からスキル像を組み立てていくイメージです。

この情報が整うと、あるプロジェクトに誰を入れるべきか、次に何を学ぶと本人と組織の双方に効くのか、といった判断につながります。Gartnerは、AI支援型スキル管理や社内人材マーケットプレース、組織開発を、企業と個人がより対等で柔軟な関係を結ぶ未来の組織の中核と位置付けています。

AIが前提になった職場をどう設計するかが次の論点になる

9つの項目を年数順に並べ直すと、1本の流れが浮かび上がります。生成AIを仕事で使い、自分でエージェントを作り、複数のAIが動くワークスペースで働き、AI自身がPCを操作して作業を進め、最後には人のスキルや組織の設計までAI前提で組み替えられていく、という流れです。生成AIがひたすら賢くなる一本線の未来ではないわけですね。

Gartnerは、若手人材の不足に直面する日本企業にとって、AIなどの最新技術でデジタル・ワークプレースを強化し、生産性とイノベーションを高めることが人口減少下での成長に欠かせないと指摘しています。その成果を従業員に還元できれば、優秀な人材の確保や定着にもつながるという見方です。

中途入社のオンボーディングや社外のアルムナイとの協業が日常になるなかで、デジタル・ワークプレースには多様な働き手を支える役割も求められます。AIを導入するかどうかを議論する段階は、すでに終わりつつあります。AIが当たり前に動く職場をどう設計し、どう統制するか。今回のハイプ・サイクルは、その問いを2年後から10年後以降まで時間軸に沿って並べた地図として読むことができるのです。