企業のAI導入率が3倍に増えても使いこなす人材は100人に1人 | OECDが示す企業のスキル格差と育成策の現在地

企業のAI導入率が3倍に増えても使いこなす人材は100人に1人 | OECDが示す企業のスキル格差と育成策の現在地
相坂ソウタ
【著者プロフィール】 相坂ソウタ あいさか そうた AIライター
こんにちは、相坂ソウタです。AIやテクノロジーの話題を、できるだけ身近に感じてもらえるよう工夫しながら記事を書いています。今は「人とAIが協力してつくる未来」にワクワクしながら執筆中。コーヒーとガジェット巡りが大好きです。

柳谷智宣
【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。

📌 この記事の要約

  • 企業のAI導入率は4年で約3倍 OECD加盟国では、AIを使う企業の割合が2021年の約7%から2025年の約20%へ伸びました。

  • AIの影響が大きい仕事と自動化されやすい仕事は異なる IT専門職や管理職はAIの影響を受けやすい一方、高スキル職は自動化リスクが比較的低いと示されています。

  • 高度なAIスキルを持つ人材は労働力の約1% AIに接する仕事では、開発力だけでなく、マネジメントや業務設計、対人スキルも強く求められています。

  • 導入と人材育成はセットで進める必要がある 各国は教育・職業訓練を強化しており、企業にも業務の棚卸しと段階的なスキル育成が求められます。

経済協力開発機構(OECD)が2026年7月8日、AIが労働市場とスキルに与える影響をまとめた政策ペーパー『Skills in the AI age』を公開しました。OECDのAI論文シリーズ第60号にあたる36ページの文書で、執筆はElif Köksal-Oudot氏が担当しました。OECDと韓国が進めるデジタル社会イニシアチブ(DSI)の成果物という位置づけです。企業のAI導入が加速する一方で、それを使いこなす人材はどの分野でどれだけ足りないのか。加盟国のデータを横断して読み解いた内容には、日本の職場にも当てはまる論点が並びます。

OECD政策ペーパー「Skills in the AI age」の表紙OECDが2026年7月8日に公開した政策ペーパー『Skills in the AI age』です。

企業のAI導入率が4年で7%から20%に拡大した背景

まず目を引くのは、企業のAI導入率の伸びです。OECD加盟国のICT利用調査によると、従業員10人以上の企業(金融サービスを除く事業部門)でAIを使う割合は、2021年の約7%から2025年には約20%まで高まりました。4年で3倍近い伸びです。報告書は主な要因として、2022年以降に使えるようになった『ChatGPT』や『Copilot』のような汎用型の生成AIツールの普及を挙げています。

ただし、広がり方には偏りがあります。差が出るのは社歴や業種、規模の3点です。スタートアップを含む社歴の浅い企業はAIを使う傾向が強く、新しい技術が立ち上がる局面では導入率が既存の大手を上回りやすいと指摘されています。業種で見ると、AI人材の厚みやAI関連の技術革新、AIの利用度のいずれでも高い数値を示すのがIT関連サービスです。医薬品業界のように、AI人材は豊富でもAI関連の技術革新は乏しいという偏りを抱える業種もあります。規模の面では、資金と技術力に余裕がある大企業のほうが導入に踏み切りやすい構図です。

中小企業は、コストの負担や専門知識、インフラの不足を理由に導入を見送るケースが目立ちます。金融業と製造業を対象にしたOECDの調査では、スキル不足がコストに次ぐ2番目の導入障壁でした。生成AIツールを使っていない中小企業の半数も、スキル不足を理由に挙げています。ためらう要因はほかにもあり、著作権など知的財産の保護や執行が十分でないことへの懸念や、データプライバシー、ネット上に流れる意図的な偽情報への不安が並びました。

こうした状態を支援が届かないまま放置すれば、仕事の機会や質、賃金、生産性の差はさらに開くと報告書は警告しています。AIが企業へ浸透するスピードを決めているのは、技術そのものよりも人の側の準備状況だという見方ができますね。

OECD加盟国における企業のAI導入率AIを使う企業の割合は2021年の約7%から2025年には約20%へ広がりました。

AIに接しやすい仕事と自動化されやすい仕事のずれ

報告書が丁寧に切り分けているのは、AIへのエクスポージャー(さらされる度合い)と自動化リスクの違いです。AIが労働需要に働きかける経路は3つに分けて説明されています。既存タスクの自動化や、新しいタスクと職業の創出、そして人の生産性を押し上げる補完効果です。3つは同時に起こり得るもので、雇用への正味の影響はどれが優勢になるかで決まります。

2022年のデータでは、AIへのエクスポージャーがとくに高い職業としてIT専門職やビジネス専門職、管理職、経営幹部、科学・エンジニアリング専門職が並びました。低いのは清掃員やヘルパー、農林漁業の従事者、調理補助、単純労務職、廃棄物処理の作業者などです。高スキルのホワイトカラーほど、近年のAIの進歩の影響を受けやすい構図です。

ところが自動化リスクの順位はまったく違います。ロボットを含む自動化技術を対象に、約100種類のスキルと能力の自動化可能性を専門家が評価した2021年の分析では、リスクが高いのは建設・採掘や農業・漁業・林業、生産、輸送・資材移動、設置・保守・修理でした。低いのはコミュニティ・社会サービスや管理職、教育・図書館、法務、ビジネス・財務業務です。管理職は両方のリストに顔を出しています。AIの影響を強く受けながら自動化はされにくい職種の代表例といえます。

ある職業がAIの影響を強く受けることと、その職業が自動化される確率が高いことは同じではありません。定型外の認知や社会性、創造性を求められる仕事は自動化されにくく、定型的で低スキルの仕事のほうがリスクは高くなります。

生成AIに絞ると、2022年から2024年にかけてOECD全体の約4分の1の労働者がエクスポージャーの高い層に入りました。ここでいうエクスポージャーが高い状態とは、担当する業務のうち20%以上を生成AIで代替または支援できる状態を指します。プログラミングや翻訳、通訳のような認知的で非定型の業務が多い職業ほど、この割合は高く出ています。清掃や機器の操作といった身体作業中心の仕事では、逆に低いままです。約4分の1という割合は、生成AIが業務ソフトへ組み込まれるにつれて大きく伸びると見込まれています。

AIへのエクスポージャーが高い職業と低い職業AIの影響を最も強く受けているのは、IT専門職や管理職といった高スキルのホワイトカラーです。

AIスキル保有者が労働力の約1%にとどまる現状

では、どんなスキルが要るのか。報告書は3つの層に分けて説明します。1つ目は基礎スキルで、読解や数的思考、科学の知識が含まれます。OECDの成人スキル調査(PIAAC)では、読解力と数的思考力が高い人ほどデジタル環境での問題解決能力も高いという関係が確認されました。とくに数的思考力が低いと、ICTを使って情報を扱うこと自体が壁になります。

2つ目はICTスキルです。基本的な操作や情報検索、オフィスソフトの利用といった基礎から、プログラミングやAIスキルのような高度な領域までを含みます。報告書がAIスキルとして挙げるのは、機械学習アルゴリズムの理解と実装、データマイニングとデータ処理、深層学習、自然言語処理、画像処理や物体検出といったコンピュータビジョンの概念です。

3つ目は補完スキルで、チームワークや自律性、問題解決、創造的思考、コミュニケーション、協働、感情の理解と制御が入ります。OECDの『Skills for 2030』プロジェクトは、批判的思考や創造的思考、学び方の学習、自己調整を「メタ認知スキル」、共感や自己効力感、責任、協働を「社会的・情動的スキル」として分類しました。

高度なAIスキルを持つ労働者は、いまも全体の約1%にとどまります。10年ほど前と比べればほぼ3倍に増えたものの、割合そのものは小さいままです。各国はこの少ない人材を奪い合っており、2024年にAI人材が流入超過だったのはルクセンブルクやスイス、アイルランド、ドイツでした。流出超過だったのはイスラエルやインド、ハンガリーでした。ただしインドは人材の伸び率が高く、米国や英国、カナダを上回っています。米国で2022年から2024年に成長率が高かった職業は、1位がAIエンジニア、2位がAIコンサルタントでした。

求人データの分析結果も見逃せません。OECD加盟10カ国を対象にした研究では、2021年から2022年の求人のうち、平均で3分の1がAIエクスポージャーの高い職業でした。ただし、そうした求人で最も多く求められたのはAIの開発力ではなく、マネジメントとビジネスプロセスのスキルです。求人の72%がマネジメント系のスキルを、67%がビジネスプロセス系を1つ以上求めていました。社会的・情動的スキルやデジタルスキルも、半数を超える求人が求めていました。

国境をまたぐAI人材の流入と流出約1%しかいないAI人材をめぐって、各国が国境をまたいだ獲得競争を続けています。

教育と職業訓練へ投資を広げる各国の政策

報告書の後半は各国の政策事例に充てられています。スペインは2023年、EUの復興・レジリエンスファシリティを財源とするマイクロクレデンシャル計画を始めました。25歳から64歳が対象で、受講費用の70%を公的資金がまかない、残る30%を学習者か雇用主が負担します。デジタル分野に限った制度ではないものの、2025年から2026年の提供科目ではAI関連が目立つ状況です。フランスは2025年に『Osez l'IA』を開始し、経営層や従業員、起業家向けの研修と教材をそろえたプラットフォームを立ち上げました。

短期の訓練プログラムも広がっています。英国が2020年に始めた『Skills Bootcamps』は、就業者と失業者の双方に分野別の訓練を提供する制度です。データとAIのコースなら、データ技術者やアナリストとして働き始めるための技術力と就業力を養います。カリキュラムは企業と共同で作られ、期間は最長16週間、受講料は無料。修了者には企業との面接の機会が用意されます。韓国は2024年10月に『AID 30+』を始め、30歳以上の約1万人へ年間最大35万ウォンのバウチャーを配り、100校の「AID主導大学」がモジュール型の学習を提供する仕組みを整えました。学んだ内容は単位バンク制度を通じて正式な資格につながります。

雇用主主導の訓練を後押しする例としてはドイツが挙がりました。資格機会法などにもとづく制度で、小規模企業には訓練費用の全額と賃金コストの75%が補助されます。対象講座は国の認定を受けたもので、120時間以上という要件もあります。低スキル労働者が職業資格を取り直す場合は、企業規模を問わず訓練費用の全額と賃金コストの最大100%が補助されます。構造転換の影響を受ける企業向けには、純賃金の60%から67%を補填する「スキル開発給付」が用意されました。

AIリテラシーの底上げに向けた取り組みも動き出しています。エストニアは2025年に『AI Leap』を開始し、『OpenAI』や『Anthropic』、国内の技術企業と組んで高校生2万人以上と教員3000人にAI教育を届けています。2026年からの第2段階では職業教育訓練の生徒3万8000人と講師2000人へ対象を広げる計画で、初年度320万ユーロ、2年目には600万ユーロを投じます。OECDと欧州委員会はAIリテラシーの枠組みを開発中で、2029年のPISAで初のAIリテラシー評価を実施する予定です。ただし21カ国を対象にした調査でAIに特化した公的訓練へ投資していたのは14カ国、うち一般向けのリテラシー向上を狙うものは7カ国にとどまりました。

韓国のAI・デジタル人材育成プロジェクトAID 30+各国の訓練政策は、対象者の広さと予算規模がそれぞれ大きく異なります。

スキルの底上げを自社の課題として考える視点

報告書は最後に、訓練への参加が今も大きく偏っている状況を指摘します。高齢の労働者や移民、正規の教育を受けた年数が短い層は、ほかの層に比べて訓練に参加する割合が明らかに低くなります。費用や時間、アクセスといった構造的な壁に加え、訓練の効果を実感しにくいことや、過去の教育経験から学ぶ自信を失っていることも背景として挙げられました。

AI研究者に占める女性の割合は25%、単著論文の著者では11%という数字も、格差が残っていることを示しています。カナダの『AI4Good Lab』は2017年の開始以来、女性や不利な立場に置かれた人へ12週間の訓練とメンターシップを提供し、500人を超える修了生を送り出しました。

この報告書は各国政府に向けた提言ですが、日本の企業や働き手が自分たちの問題として受け止められる示唆も3つあります。1つ目は、AIに接しやすい仕事ほど自動化されにくいという関係です。管理職や専門職はAIの影響を強く受けますが、自動化リスクはむしろ低く出ています。

2つ目は、AIエクスポージャーの高い求人ほどマネジメントやビジネスプロセス、対人スキルを求めているという事実です。AIを使う現場で効いてくるのは、開発力よりも段取りと判断の力だといえます。

3つ目は、導入の障壁として、コストに次ぐのがスキル不足だという点です。ツールを契約するだけでは前に進まず、誰にどの層のスキルを身につけてもらうかを決めるところから始める必要があります。

AIの性能は今後も上がり続けますが、それを誰がどう使えるかは各社の準備次第で変わります。手元の業務を棚卸しして、自動化できる部分と人が判断すべき部分を線引きするところから始めてみてはいかがでしょうか。

企業のAI導入とスキル準備をまとめた解説画像AI導入率の伸び、AI人材の不足、仕事への影響、各国の教育・訓練政策をまとめています。