中国発の巨大AI『Kimi K3』とは?性能・価格・公開予定を徹底解説

中国発の巨大AI『Kimi K3』とは?性能・価格・公開予定を徹底解説
相坂ソウタ
【著者プロフィール】 相坂ソウタ あいさか そうた AIライター
こんにちは、相坂ソウタです。AIやテクノロジーの話題を、できるだけ身近に感じてもらえるよう工夫しながら記事を書いています。今は「人とAIが協力してつくる未来」にワクワクしながら執筆中。コーヒーとガジェット巡りが大好きです。

柳谷智宣
【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。

📌 この記事の要約

  • 2.8兆パラメータの巨大モデル 『Kimi K3』は896のエキスパートから16だけを動かすMoE構造により、規模と計算効率の両立を図っています。

  • 分野によっては最上位モデルを上回る性能 コード生成や長時間エージェント、Web調査で高得点を記録する一方、高難度開発や実務総合では上位モデルに及びませんでした。

  • 長時間の自律作業を実例で提示 GPU翻訳基盤の構築や48時間に及ぶ半導体設計など、人の介入を抑えた長時間タスクの事例が公開されています。

  • 安さ一辺倒ではない価格戦略 APIは100万トークンあたり入力3ドル、出力15ドルで、前モデルから大幅に値上げされました。

中国のMoonshot AIが7月16日、新しいAIモデル『Kimi K3』を発表しました。規模を示すパラメータ数は2.8兆で、オープンウェイトのモデルとしては世界最大になります。写真や画面をそのまま読み取れるマルチモーダルに対応しているほか、一度に読み込める分量は100万トークンあり、分厚い資料を丸ごと渡すこともできます。

発表と同時にチャットサービスの『Kimi.com』やAPIで使えるようになりました。上海で開かれる世界人工知能大会を前にした公開で、直後には半導体関連株が世界的に売られています。モデルの中身そのものは、7月27日までに公開される予定です。

Kimi K3のWebページMoonshot AIが公開した『Kimi K3』のWebページです。

896人の「専門家」のうち16人だけを呼び出す設計

パラメータ数2.8兆と聞くと、自分で動かすのは大変そうですが、『Kimi K3』は入力のたびに全部を使うわけではありません。得意分野の違う専門家を896人そろえておき、質問の内容に応じてそのうち16人だけを呼び出す、MoE(混合エキスパート)と呼ばれる仕組みを採用しています。1回あたりに動く数は全体の2%弱で、規模を大きくしつつも計算コストを抑える、いまの大型モデルでは定番の作りといえます。

新しいのは、文章の中でどの言葉とどの言葉が関係しているかを見つける部分です。Moonshot AIはここに独自の方式を2つ持ち込みました。ひとつは長い文章を効率よく追いかける仕組み、もうひとつは処理の層を重ねる中で必要な情報だけを選んで引き継ぐ仕組みです。同社はこうした改良の積み重ねで、前モデルの『Kimi K2』に比べて学習の効率が約2.5倍になったと説明しています。同じ計算資源からより多くの性能を引き出せるようになったとのことです。

省メモリへの配慮も見えます。事後学習の途中から数値の精度を落とした状態で訓練しておき、軽い設定で動かしても品質が崩れにくいようにしました。特定の高性能チップに縛られず、幅広いハードウェアで動かせるようにする狙いがあります。もっとも本気で運用するなら演算装置を64基以上束ねた構成を推奨しており、個人が自宅で気軽に回せる規模ではありません。学習方法や構造の詳細は、後日出る技術レポートで明かされます。

Kimi K3のMoEとアテンション構成図エキスパートの呼び出しとアテンション処理の流れを示した構成図です。

テスト項目ごとに順位が入れ替わるものの上位モデルに匹敵する性能

性能について、Moonshot AIは総合力ではAnthropicの『Claude Fable 5』とOpenAIの『GPT 5.6 Sol』に及ばないと明記したうえで、検証した他のモデルは一貫して上回ったと述べました。

プログラムを書かせる試験では77.8点で、『GPT 5.6 Sol』の77.6点、『Claude Fable 5』の76.8点をわずかに上回りました。人が手を貸さずに長時間かけて開発を進めさせる試験は42.0点で首位。2位の『Claude Opus 4.8』が40.0点、3位の『GPT 5.6 Sol』が39.0点でした。Webを調べ回って答えを出す試験でも91.2点を取り、『GPT 5.6 Sol』の90.4点、『Claude Fable 5』の88.0点を抜いています。

一方、難度の高いソフトウェア開発の試験では『Claude Fable 5』の86.6点に対して『Kimi K3』が81.2点。実際の職業の仕事をどれだけこなせるかを測る試験でも、『Claude Fable 5』の1760点、『GPT 5.6 Sol』の1748点に対し、『Kimi K3』は1668点の3位にとどまりました。

第三者の評価も出ました。どちらのモデルが書いたか伏せたまま利用者に投票させる『Arena.ai』のランキングでは、Webサイトの見た目や動きを作らせる部門で『Kimi K3』が1679点を取り、1631点の『Claude Fable 5』と1618点の『GPT 5.6 Sol』を抑えて首位に立っています。前モデルの『Kimi K2.6』が1515点の18位でしたから、17ランクの上昇です。7分野のうち6分野で1位を取り、ゲーム分野だけ『Claude Fable 5』に譲りました。

Kimi K3のベンチマーク比較ベンチマークの比較グラフです。項目によって順位が入れ替わっているのが分かります。

人が手を貸さずに48時間動き続けて半導体を設計した事例

ブログには、実際にやらせてみた事例が並んでいます。ひとつはGPUの性能を引き出すプログラムの改良です。各モデルを同じ環境に置き、最大24時間かけて4つの課題を計測し書き直させました。『Kimi K3』は『Claude Fable 5』と互角に渡り合い、『Claude Opus 4.8』や『GPT 5.6 Sol』、『GPT 5.5』を大きく上回ったといいます。開発の終盤には、完成前の『Kimi K3』が社内のこの手の作業を大半こなしていたそうです。

開発環境そのものをゼロから作らせる試みもありました。『Kimi K3』が書き上げたのは、人が書いたプログラムをGPUの理解できる形へ翻訳する土台です。既存の定番ツールと同等以上の速度を出し、実際の学習処理を最後まで安定して回せたところまで確認できたとのこと。部品を作るだけでなく、入り口から出口までの一式を組み上げられたことが重要なポイントです。

目を引くのは半導体の設計です。『Kimi K3』は人の指示を挟まずに48時間動き続け、自分と同じ構造の小型モデルを載せるためのチップを設計し、検証まで終わらせました。使ったのは無償で公開されている設計ツールだけ。面積4平方ミリメートルの中に146万個の回路部品を詰め込み、シミュレーション上で毎秒8700トークンを超える処理速度を出しています。AIのためのチップをAIが設計したことになります。

研究の現場を想定した事例も紹介されました。中性子星の性質をめぐる物理法則を再現する課題では、20本以上の論文を読み比べ、300を超える理論モデルを試し、3000行を超えるプログラムを書いて、結果を触って確かめられる画面まで作り上げています。かかった時間はおよそ2時間。慣れた研究者でも1週間から2週間はかかる作業だといいます。

Kimi K3が構築したGPU翻訳基盤の性能『Kimi K3』が独力で作った翻訳基盤の性能です。既存の定番ツールと肩を並べています。

安さだけでは勝負しない価格設定と発表当日からの提供体制

価格を見ておきましょう。APIの料金は100万トークンあたり、入力が3ドル、出力が15ドルです。一度読ませた内容を再利用する場合は入力が0.30ドルまで下がり、公式APIでは、コーディング用途のキャッシュ命中率が90%を超えるとしています。

とはいえ、前モデルの『Kimi K2.6』が入力0.95ドル、出力4ドルでしたから、大幅な値上げです。中国系のモデルとしては最も高く、『Claude Opus 4.8』のおよそ6割、『GPT 5.6 Sol』の半分ほどに当たります。安さを武器にしてきた従来の中国勢とは違う位置取りですね。

使える場所は、Webとスマートフォンアプリ、パソコン向けの『Kimi Work』、開発者向けの『Kimi Code』、そしてAPIです。『Kimi Work』には、会話の中で対話型の部品を作れる機能と、それを1つの画面にまとめて残しておける機能が加わりました。当面は思考量を最大にした設定だけが提供され、軽い設定と重い設定は今後の更新で追加されます。

Kimi K3のAPI価格表API価格表です。再利用時の入力単価が大きく下がる料金設計になっています。

本当の答え合わせが始まるのは7月27日以降

『Kimi K3』の発表後、中国のZ.aiの株価は約27%、MiniMaxは約16%下がり、米国の半導体株指数は週間で10%安。東京市場でも半導体関連が5%を超えて下げています。ただ、アナリストの受け止めは落ち着いていました。Bernsteinは既定路線を裏付ける発表だと位置付け、Morgan Stanleyは突発的な衝撃ではなく積み上げの結果だと評価しています。Bank of Americaは、中国モデルの実力の天井が上がったことで、今度はほかの研究機関が自らの立ち位置を示す番になったと指摘しました。

Moonshot AIによると『Kimi K3』は自分の思考の記録を持ち越しながら学習しているため、使う側の環境が過去の思考を正しく渡さなかったり、別のモデルとの会話を途中で『Kimi K3』に切り替えたりすると、出力の質が大きく崩れると言っています。動作確認の取れた環境を使い、会話の途中で乗り換えないよう勧めています。

難しい長時間の仕事を重点的に訓練した反動で、指示が曖昧なときにユーザーに代わって勝手に判断を進めてしまうこともあるとのこと。決められた範囲だけで動いてほしい用途なら、あらかじめ制約を書き込んでおく必要があります。使い勝手そのものは『Claude Fable 5』や『GPT 5.6 Sol』に明らかに劣ると、自ら認めてもいます。

補足

公表された数字の大半は自社の測定であり、外部による検証はまだ限られます。

7月27日にモデルの重みが公開されれば、十分な計算資源を持つ第三者が、同一条件で性能を検証しやすくなります。設備を用意できる組織なら、自社環境で動かし、データを外部に出さずに利用する道も開けます。乗り換えるかどうかを急いで決めるより、モデルが替わるたびに使い回せる評価の物差しを先に用意しておくほうが、この先の判断は楽になるはずです。

Kimi K3の特徴と評価をまとめた解説画像『Kimi K3』の構造、性能、実例、価格、公開後の検証ポイントをまとめた解説画像です。