- 【著者プロフィール】 相坂ソウタ あいさか そうた AIライター
- こんにちは、相坂ソウタです。AIやテクノロジーの話題を、できるだけ身近に感じてもらえるよう工夫しながら記事を書いています。今は「人とAIが協力してつくる未来」にワクワクしながら執筆中。コーヒーとガジェット巡りが大好きです。
- 【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
- ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。
📌 この記事の要約
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Claude Fable 5.1が一般提供開始、性能が大幅向上
アンソロピックはFable 5.1とMythos 5.1を公開。中身は同じで安全対策の強さのみが異なり、AutomationBenchやTerminal-Benchなど各種ベンチマークで前世代を大きく上回った。 -
タンパク質設計や金星の地図など研究成果も
タンパク質の結合分子設計では実験成功率が約50%に達し、金星のレーダー画像から分解能2〜3kmの高解像度標高マップを作成するなど、長時間のエージェント作業での実力を示した。 -
企業向けにEnterprise Frontier Safeguards(EFS)を新設
監視データを顧客自身のクラウドに保存し、鍵やアクセス権限も顧客が管理する新しい安全対策の枠組みを発表。今秋から段階的に提供開始。 -
キャッシュ読み込み料金が75%値下げ
100万トークンあたり1.00ドルから0.25ドルに引き下げられ、長時間のエージェント処理では費用が最大45%ほど下がる。
2026年9月1日(現地時間)、アンソロピックがClaude Fable 5.1とClaude Mythos 5.1を公開しました。この2つは中身が同じモデルで、違うのは安全対策の強さです。Fable 5.1は一般向けに提供され、Mythos 5.1はサイバーセキュリティや生命科学の専門家など、審査を通った組織に提供されます。
発表資料で大きく扱われているのは、タンパク質の設計や金星の地図といった研究成果です。読み物としては面白いのですが、自分の仕事と重なる場面はなかなか浮かんできません。一方でアンソロピックが冒頭に置いたのは、料金とデータの扱い、そして安全対策という3つの実務的な項目でした。今回は研究成果を遠い話として眺めつつ、日々の使い方が変わる部分を中心に見ていきます。
アンソロピックはClaude Fable 5.1とClaude Mythos 5.1を同時に公開しました。
同じ中身で安全対策の強さだけが違う2つのモデル
Claude Fable 5.1とClaude Mythos 5.1は、アンソロピックが最上位に置くMythosクラスのモデルです。2026年6月9日に公開されたClaude Fable 5とClaude Mythos 5の後継にあたり、Opusクラスの上に位置づけられています。2つのモデルは同じ基盤を共有していて、Fable 5.1にはサイバーセキュリティや生命科学、AIの研究開発といった悪用リスクの高い分野に追加の安全対策が入っています。この2分野の制限を緩めたのがMythos 5.1で、審査を通った組織にだけ提供されます。Fable 5.1は今回すべてのプラットフォームで一般提供が始まりました。
業務の自動化をどこまでこなせるかを測るAutomationBenchでは、Fable 5の17.1%に対してClaude Fable 5.1が31.4%を記録しました。コーディング分野のTerminal-Bench 4.0でも、42.0%から55.8%まで上がっています。科学研究をエージェントとして進める能力を測るTerminal-Bench-Science 0.1にいたっては、Fable 5の24.7%に対して52.6%です。Claude Opus 5が29.0%ですから、急激に伸びたことになります。
米投資会社ミレニアムは、社内システムで何年も原因を特定できなかった不具合の調査にFable 5.1を使いました。同社のシニア・ポートフォリオ・マネージャー、ダミアン氏は次のように説明しています。
「あるコードに100万回に1回ほどしか起きない極めてまれなクラッシュがあり、4年から5年のあいだ、チームの誰も原因を説明できませんでした。Fable 5を含め、試したモデルはすべて見逃しました。Claude Fable 5.1が初めて原因を突き止めました。外部ベンダーのライブラリを逆アセンブルし、コアダンプと突き合わせて、そのライブラリのバグまでたどり着いたのです」(ダミアン氏)
法人向け金融サービス企業ランプでは、シニア機械学習エンジニアのドワイト・テンプル氏がFable 5.1を38時間ほど無人で走らせました。過去の実験結果がラベルの不備によるものだと自力で突き止め、修正したうえで6本の実験を並行して回し、結論と次の一手まで持ち帰ってきたそうです。データベース企業MongoDBでは、3日ほどで複雑なプロトタイプが組み上がりました。長時間の作業でも目的を見失いにくく、状況に応じて優先順位を変えながら進められる点は、複数の先行利用企業から評価されています。
Mythos 5.1の中身はFable 5.1と同じで、サイバーセキュリティと生命科学の分野に限って制限が緩められています。生命科学ではLife Sciences Verification Programへの参加者に提供が始まっており、防御側のセキュリティ研究者向けCyber Verification Programでも近日中にMythos 5.1へのアクセスが追加される予定です。現時点では利用できるのは米国の一部組織に限られています。Terminal-Bench 4.0でMythos 5.1が60.9%とFable 5.1を上回っていますが、この差は安全対策が介入したタスクでスコアが落ちた分によるものです。
科学研究向けのベンチマークでは、前世代の24.7%から52.6%へと大きく伸びました。
タンパク質設計や金星の地図で示された研究向けの実力
Claude Mythos 5.1はタンパク質の結合分子の設計にも挑みました。オープンソースの設計ツールと立体構造の予測ツールを渡し、できあがった設計を外部の2組織に送って実験で確かめる手順です。12個の標的に対して、実際に結合した設計の割合はおよそ50%にのぼりました。この分野では10%から15%が普通とされているので、かなり高い数字です。3つの標的では、タンパク質の設計・実験を手がけるアダプティブ・バイオのコンペティションに出された最良の設計より10倍強く結合しました。
金星の地図も描き直しています。NASAのマゼラン探査機が30年以上前に撮影したレーダー画像をもとに、Fable 5.1がニューラルネットワークを学習させ、惑星の3分の1を覆う標高マップを作りました。分解能はこれまでの10〜20kmから2〜3kmに細かくなり、高さの精度も最大25%良くなっています。この地図はクリエイティブ・コモンズライセンスで公開され、NASAのVERITASや欧州宇宙機関(ESA)のEnVisionといった今後の探査計画で、観測地点を選ぶ材料になることが期待されています。
計算生物学の分野では、GPU上で動く解析モデルの高速化に取り組みました。Mythos 5.1が専用のGPUカーネルを書き、中間結果をキャッシュする仕組みを加えたところ、7つのオープンソースモデルが最大2.5倍速くなっています。ゲノム全体を調べる解析ではGPUの費用が30%から60%下がり、性能エンジニアのチームが数週間かける仕事を数日で片づけました。
ここで注目したいのは研究テーマそのものより、AIが複数のツールを使いながら長い作業工程を進めている点です。Fable 5.1は前述したAutomationBenchやTerminal-Benchでも前世代を上回っており、研究だけでなく、調査や開発など長時間のエージェント作業でも性能が伸びています。
30年以上前のレーダー画像から、金星の3分の1を覆う高解像度の標高マップが作り直されました。
企業がデータを自社に置いたまま使える新しい安全対策
アンソロピックは9月1日、Enterprise Frontier Safeguards(EFS)という企業向けのデータ保護の枠組みも同時に発表しました。背景にあるのは、Fable 5から悪用の監視のために導入された30日間のログ保持です。巧妙な悪用は複数のセッションやアカウントにまたがって進むため、1回ごとのやり取りをその場で分析して即座に捨てる方式では見抜けません。かといって金融や医療のような規制業種は、データが手元を離れるモデルを業務に入れにくいという事情を抱えていました。
EFSは、監視に使うデータの置き場所を顧客側に移すことでこの板挟みを解いています。ログはAmazon S3やAzure Blob Storage、Google Cloud Storageなど顧客自身のクラウドに保存され、暗号鍵もアクセス権限も監査ログも顧客が握ります。自動監視が異常を見つけたときは、そのフラグが顧客のセキュリティチームに直接届き、アンソロピックの社員が中身を確認する工程は入りません。ゼロデータ保持と同じプライバシーを保ちながら、時間とアカウントをまたいだ監視だけを残す設計です。
米金融大手ウェルズ・ファーゴの最高情報セキュリティ責任者、ムニシュ・クマール・シャルマ氏は、EFSについて次のように説明しています。
「Enterprise Frontier Safeguardsは、まさに私たちが必要としていた仕組みです。ログはウェルズ・ファーゴが管理する環境に、ウェルズ・ファーゴが管理する鍵のもとで残ります。データは自分たちで保持し、検知はアンソロピックが運用します。この分担があるからこそ、現場は最先端のモデルを安全に使い、顧客や従業員、規制当局に対する責任を果たせます」(シャルマ氏)
開発には100社を超える企業が関わりました。金融サービスやヘルスケア、製造、通信、法務、小売、公共部門と業種は幅広く、米国の大手銀行のCISOが集まる組織も設計段階から参加しています。アンソロピックはEFS自体には追加料金を課さず、顧客には利用するクラウドのストレージやデータの読み書き、転送などの料金が発生します。提供は今秋から段階的に始まり、それまでの対象顧客はFable 5.1をゼロデータ保持のまま使えます。
生物学の分野では、初等的な生物学や医療の質問で安全対策が誤って発動する回数が85%減りました。サイバー分野でも、Claude Codeの1セッションあたりの介入がおよそ60%減っています。脆弱性の発見にFable 5.1を使えるようになった一方、ペネトレーションテストやエクスプロイトの生成、バイナリを対象にした脆弱性スキャンは引き続きOpusクラスへ回されます。生命科学の研究開発に関する質問も、これまでどおりOpusクラスへ回されます。これまで安全対策が誤って反応することがあった初歩的な生物学や医療の質問でも、不要な介入が減りました。危険な用途への制限を残しながら、通常の利用を妨げにくくする調整が進んでいます。
EFSでは監視用のデータが顧客のクラウドに残り、検知の通知は顧客のチームへ直接届きます。
キャッシュ読み込みの値下げで請求額そのものが下がる
Claude Fable 5.1は公開と同時にすべてのプラットフォームで使えるようになり、AWSやGoogle Cloud、Microsoft Azure経由でも動きます。開発者が指定するモデル名はclaude-fable-5-1です。そのうえでいちばん実務に近い変更は、キャッシュ読み込みの料金が75%下がったことでした。単価は100万トークンあたり0.25ドルになっています。
長い会話を続けたり、コードベースや社内マニュアルをまるごと渡したりする使い方では、新しく書き出す文章より、同じ前提を何度も読み直す分のほうが量として大きくなります。エージェントに長時間の作業を任せるほど、請求額に占めるキャッシュ読み込みの比率は上がっていきます。今回の値下げが大きな差になるのは、まさにこの部分です。
入力と出力の単価は据え置きで、100万トークンあたり入力が10ドル、出力が50ドルのまま変わりません。それでもアンソロピックが2026年8月の4週間の実使用をもとに計測したところ、一般的なワークロードでは総額がおよそ25%下がりました。長いコンテキストとツール呼び出しを繰り返すエージェント処理では、最大でおよそ45%安くなりました。性能を上げながら実質的な値下げに踏み切った形です。
エフォート(推論にかける手間)の設定でも費用は変わります。Fable 5.1はLowやMediumでも、前世代のFable 5と同等かそれ以上の結果をはるかに低いコストで出せます。既定値はClaude CodeがHigh、Claude CoworkとClaude.aiがMediumです。APIやClaude Codeのように設定を選べる環境なら、重い調査でないかぎり1段下げるだけで請求額は小さくなります。
トークンの使用量そのものも減りました。金融向けAIを手がけるロゴは、社内の財務ベンチマークで精度をFable 5と同水準に保ちつつ、トークン消費が20%減ったと報告しています。開発エージェントDevinを提供するAI企業コグニションは、コストの都合でOpusに残していたコードレビューの処理を、公開当日にFable 5.1へ移すと表明しています。
特に恩恵が大きいのは、APIで長いコンテキストを繰り返し使う処理です。今回75%下がったのはキャッシュ読み込みの単価で、入力と出力の単価は変わっていません。そのため、実際にどれだけ安くなるかはキャッシュ読み込みの割合によって変わります。長い資料を繰り返し参照する処理や、コンテキストを大量に抱えるエージェントを運用しているなら、料金への影響は大きくなりそうです。
キャッシュ読み込みの値下げにより、エージェント的な作業では費用が最大45%ほど下がります。
探究の速度を上げる道具として定着したAI
Claudeはタンパク質の結合分子を設計し、30年以上前のレーダー画像から金星の地図を描き直し、生物学の解析を最大2.5倍まで速くしました。人間の専門家が何週間もかけてきた仕事を数日で進めた事例もあります。金星の地図についても、今後の探査計画で観測地点を選ぶ材料として役立つことが期待されています。
企業での事例を見ると、Fable 5.1の特徴は、難しい問題を解けることだけではありません。数時間から数日にわたる作業を続け、途中で得た情報をもとに次の工程へ進める能力も伸びています。科学研究で紹介された成果も、こうした長時間のエージェント作業の延長線上にあります。
今回の発表では、そのFable 5.1が一般提供され、キャッシュ読み込みの単価も75%下がりました。さらに企業向けには、監視データを顧客側のクラウドに保存するEFSが今秋から順次提供されます。研究能力の向上だけでなく、長時間の調査や開発にAIを使う際のコストとデータ保持までまとめて見直されたことが、Fable 5.1の実務上の大きな変化です。Claude.aiのモデル選択画面からすぐに切り替えられるので、まずは手元の作業で前世代との違いを試してみてください。

