ChatGPTが過去の会話から記憶を自動生成、古い情報を裏側で書き換える新メモリ「Dreaming」とは

ChatGPTが過去の会話から記憶を自動生成、古い情報を裏側で書き換える新メモリ「Dreaming」とは
星川アイナ
【著者プロフィール】 星川アイナ ほしかわ あいな AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。
柳谷智宣
【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。

📌 この記事の要約

  • ChatGPTの新メモリ機能「Dreaming」が登場
    OpenAIが2026年6月5日(日本時間)に発表。過去の会話を裏側で自動整理し、古くなった記憶を書き換える仕組みで、記憶の「ズレ」に対処する。

  • まず米国のPlusとProユーザーから提供開始
    数週間かけて対象国を拡大し、無料のFreeプランにも順次提供予定。「メモリの要約」画面で記憶の中身を確認・編集できる。

  • 良いメモリの3条件:継続・好み・時間への対応
    文脈を引き継ぐ、好みや条件に従う、時間の流れに合わせて更新する、という三つの観点でメモリを評価・改善している。

  • 計算コストを約5分の1に削減し無料ユーザーへも展開
    効率化によって無料プランへの提供が実現。Dreaming V3が全ユーザー共通のメモリ基盤として位置づけられた。

 ChatGPTを使っていて、前に話したはずのことを忘れられていた、逆に、もう終わった予定をいつまでも覚えられていた、という経験はないでしょうか。OpenAIは日本時間で2026年6月5日、こうした記憶の「ズレ」に対処する新しいメモリの仕組みを発表しました。

 「Dreaming(ドリーミング)」と呼ぶ方法を中心に据え、過去の会話から自動で記憶を整理し直す仕組みです。記憶が古くなる、誤りが残ったままになる、そして何億人もの人が使うなかでうまく動かす。この三つの課題にどう向き合うのか、今回は、OpenAIの発表の中身を整理します。

2026年6月4日付のOpenAIウェブサイト。「夢を見る:より役立つChatGPTのためのより良い記憶」と題した記事が掲載され、メモリ合成の改善についての説明が表示されている

米国のPlusとProユーザーから新しいメモリ機能の提供が始まった

 今回の発表でOpenAIが強調したのは、メモリがChatGPTの使い勝手を支える中心的な機能に育ってきたことです。メモリは、利用者の好みや進行中のプロジェクトや外せない条件などを覚えておき、次に話しかけたときに一から説明し直さなくても済むようにしてくれます。仕事の相談でも趣味の調べ物でも、前回までのやり取りを引き継いだ状態から始められるわけです。

 新しい仕組みは、米国のPlusとProの利用者に向けて、発表当日から順番に提供されます。その後、数週間かけて対象の国を増やし、無料のFreeプランやGoプランの利用者にも広げる予定です。日本での提供時期は明らかにされていませんが、対象国の拡大に含まれる見込みです。

 Dreamingが整理した記憶は、「メモリの要約(memory summary)」というページで確認できます。ここを見れば、ChatGPTが自分について何を覚えているかの概要がわかります。情報を足したり直したり、どの話題をいつ持ち出してほしいかを指示したりすることも可能です。気になる部分があれば、そのままChatGPTに尋ねて詳しく確かめられます。覚えている中身を利用者がチェックし、自分で手直しできるようになっているわけです。

 覚える対象は、「覚えておいて」とはっきり頼んだ情報だけではありません。会話の中で自然に出てきた話も拾ってくれます。たとえばカメラ機材の相談を一度しておけば、後日「私の撮影環境に合う製品は」と尋ねるだけで、手持ちの機材に合った提案が返ってくる、という具合です。

ChatGPTの「Memory summary(メモリの要約)」画面。Overview、Hobbies and Lifestyle、Travel and Culture、Community and Educationなどの項目に分けて、ChatGPTが把握しているユーザー情報の概要が表示されている。「Make a correction」「Don't mention this again」のオプションも表示されている

保存メモリの弱点を補うために裏側で働くDreamingが生まれた

 メモリ機能のこれまでの歩みを振り返ると、いまの仕組みがどんな課題から生まれたのかが見えてきます。最初のメモリは2024年4月に登場しました。「保存メモリ(saved memories)」と呼ばれるもので、「7月にシンガポールへ行く予定だと覚えておいて」のように、利用者がはっきり頼んだ情報を書き留め、後の会話に引き継ぐ機能でした。

 ただ、この方法には弱点がありました。記憶を書き込めるのは会話の最中だけで、しかも「覚えておいて」といった強い合図が必要でした。OpenAI自身、当時の使い心地を、いくつかメモはとってくれるものの、書き留めなかったことはすべて忘れてしまう相手と話しているようだ、と振り返っています。保存した記憶は時間がたつと古くなり、やがて誤りや、いまとは関係のない情報に変わっていきがちでした。

 流れが変わったのは2025年4月です。OpenAIはメモリ機能を作り直し、保存メモリの一覧に載っていない会話の履歴も参照できるようにしました。このとき初めて導入されたのが、Dreamingの最初のバージョン(Dreaming V0)です。Dreamingは、利用者が見ていない裏側で自動的に過去の会話を参照し、記憶状態を整理・合成します。利用者がわざわざ頼まなくても、会話に自然に出てきた話を記憶に取り込みやすくなりました。

 とはいえ、当時のDreamingはあくまで保存メモリを補う役割で、これ単独では十分とはいえなかったと、OpenAIは認めています。そして今回、Dreamingを土台にした、より高性能で、動かすための計算も効率的なメモリの仕組みを導入しました。発表の時点での最新版がDreaming V3です。

ChatGPTのPersonalizationメモリ設定画面。「Reference chat history」「Reference saved memories」のトグルがオンになっており、「Saved memories」のManageボタン、PulseセクションのReference memory in suggestionsやShow Pulse in new chatsのトグルも表示されている

文脈の継続と好みの反映と時間経過への対応という三つの観点で評価する

 OpenAIは「良いメモリ」を三つの観点で考えています。一つ目は、役に立つ話を引き継げること。一度伝えた情報を、その後の会話でもちゃんと覚えている状態です。

 二つ目は、好みや条件に従えること。たとえば「私はベジタリアンです」と伝えたら、その後の提案がこの前提に沿ったものになる、という考え方です。

 三つ目は、時間の流れに対応できること。「来週の土曜に誕生日会を開く」という記憶も、いずれ当日が来て、過去のことになります。記憶がこの変化についていけるかどうかが大事になります。

 話を引き継げるかについては、水中撮影でストロボ(外付けフラッシュ)を自動で調整するための機材選びを例に挙げています。利用者がソニーのカメラ「A1 II」をNauticamのハウジングに収め、BackscatterとInonのストロボを併用している、という構成を過去に話していた場合です。メモリがないと、ChatGPTは一般的な確認手順を長々と返すだけです。一方、メモリがあると、その人の実際の機材構成を踏まえて、ぴったり合う製品名まで挙げて提案してくれます。

 好みを反映できるかは、シンガポールへの出張に合わせた旅行計画のデモがわかりやすいです。野生動物の写真撮影が好きで、冷房のよく効いたホテルを好み、混んだバーよりも静かな夕食を選ぶといった過去の傾向をChatGPTが知っていると、その好みに沿って、野鳥園やナイトサファリを中心にした行程を組み立ててくれます。メモリがないと、観光名所を並べた無難な案にとどまります。

 時間の流れへの対応は、夜の持ち帰り料理を探す場面で示されています。古い記憶のままだと、旅行が終わって自宅に戻っているのに、ChatGPTはまだシンガポールにいると思い込み、現地の店を案内してしまいます。Dreamingでは時間がたつにつれて記憶が更新されるため、「7月にシンガポールへ行く」という記憶を、旅行が終われば「2026年7月にシンガポールへ行った」と書き換えます。そして自宅の近くの店を案内できるようになります。

OpenAIのウェブサイトに掲載された「記憶がない」と「記憶と共に」の比較画面。シンガポール旅行計画を同じ質問で試した場合、記憶なしは一般的な観光情報を返すのに対し、記憶ありはユーザーの野生動物写真撮影の好みや冷房・食事の好みに沿ったパーソナライズされた旅程を提案している

計算コストを約5分の1に減らし無料ユーザーへの展開が可能になった

 Dreamingを使ったメモリは、これまでPlusとProの利用者に提供されてきました。一方で、Freeの利用者に同じ品質で届けるのは負担が大きく、現実的ではありませんでした。今回、最近の改良によって、Freeの利用者にDreamingを動かすときの計算コストを約5分の1まで減らせたとしています。この効率化のおかげで、無料プランへ順番に提供できるようになり、PlusやProでも記憶できる容量を増やせました。

 OpenAIは、Dreamingがすべての利用者に共通する記憶の土台になった、と位置づけています。同社は、汎用人工知能(AGI、人間のように幅広く考えられるAI)が人類全体の役に立つようにすることを使命に掲げており、今回の更新もその取り組みの一環だとしています。発表では、これが同社にとってこれまでで最も高性能なメモリの仕組みであり、今後も改良を続けるとしています。

 なお、記憶の扱い方や、利用者側でできる操作については、OpenAIがメモリに関するFAQ(よくある質問)を公開しています。どの情報を覚えさせ、何を消すか、参照を止めるか、といった設定は利用者の手元で調整できます。記憶を賢くする一方で、その中身を本人が管理できる状態も保つ。そんな設計の考え方がうかがえます。

「Staying correct over time」と題したOpenAIの棒グラフ。時間経過に対する正確さの評価(Task success)を年別に示しており、2024年が9.4%、2025年が52.2%、2026年(Dreaming V3)が75.1%と大幅に改善している

全ユーザー共通のメモリ基盤としてDreamingが据えられた

 今回のDreaming V3は、これまで別々に動いてきた保存メモリと、自動的な記憶の整理を、一つの土台にまとめ直す更新だといえます。利用者がはっきり頼んだ情報だけでなく、会話に自然に出てきた話も拾い、時間の流れに合わせて中身を書き換えていく。メモリのあるなしで答えがどう変わるかは、機材選びや旅行計画、夜の食事探しといった身近な例からも見て取れます。

 計算コストを大きく減らせたことで、これまで手が届かなかった無料の利用者にも提供が広がります。使える人が一気に増えるという意味で、見逃せない変化です。一方で、記憶の精度が上がるほど、何をどこまで覚えさせるかという利用者側の判断も大切になります。FAQや要約画面で中身を確かめられる仕組みがある以上、すべてを任せきりにせず、ときどき記憶の状態を見直しておくと安心です。AIが自分のことを深く知るようになるほど、その中身を自分で確かめられることの大切さも、増していきそうです。

天秤AIメディアによるコンパクト解説インフォグラフィック。「6月4日に発表 何が変わる?」「Dreamingはどう生まれた?」「何が良くなる?3つの評価軸と今後」の3列で構成され、保存メモリからDreaming V0・V3への進化、良いメモリの3条件、計算コスト削減のポイントをまとめている