アルトマンが警告|AIを導入しない国・企業が不利になる理由とは?G20とStripeの発言を読み解く

アルトマンが警告|AIを導入しない国・企業が不利になる理由とは?G20とStripeの発言を読み解く

📌 この記事の要約

  • AIは「電気」と同じ社会インフラ
    アルトマン氏はG20の場で、AIを電気になぞらえて説明。100年前に電気を拒んだ国が発展から取り残されたように、いまAIを導入しない判断は国の将来を左右すると訴えた。

  • 3カ月分の起業作業が「17分」に
    Codexなどの進化で、かつてアクセラレーターが3カ月かけて求めた成果が約17分でこなせる水準に。コードが書けなくてもユーザーを深く理解する創業者に投資したい、とアルトマン氏の条件観も変化した。

  • 警戒すべきはサイバー攻撃と権力集中
    今後5年のAI普及を妨げる要因として、サイバーセキュリティやバイオセキュリティ、そして恩恵が一部に集中するリスクを指摘。AIを潤沢にできなければ、豊かな者だけが奪い合う「悪い結末」になると警告した。

  • AIの未来を運営するのは人
    OpenAIはエンジンを提供するが、何に使うかは各社会・企業が担うべきだという立場。読者がまず考えるべきは、自分の仕事のどこをAIに任せ、その設計を誰が引き受けるのかだと結んだ。

 OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が2026年に入ってから繰り返し語っているのは、AIを社会の土台になる設備として扱うべきだという考えです。安く潤沢に行き渡らせれば国も個人も恩恵を受けられますが、放っておけばサイバー攻撃や権力の集中という形で跳ね返ってきます。

 4月末のStripe SessionsでStripeのCEOであるパトリック・コリソン氏と交わした対談でも、9月2日に米ノースカロライナ州チャペルヒルで開かれたG20 Innovation Ministerialでハワード・ラトニック商務長官と向き合った席でも、アルトマン氏はほぼ同じ筋道でこの見方を説明しています。2つの場で語られた内容を、論点ごとに噛み砕いていきます。

ホワイトハウス公式サイトに掲載されたG20 Innovation Ministerialの閉幕を伝えるリリース記事G20 Innovation Ministerialは2026年9月1日と2日にノースカロライナ州チャペルヒルで開かれました。画像は米ホワイトハウスの公式リリースです。

電気と同じ扱いでAIを国のインフラに位置づける主張

 アルトマン氏はG20の会場で、AIを電気になぞらえて説明しました。100年以上前に「自国には電気を普及させない」と判断していたら、その国は大きく発展から取り残されていたはずです。いまAIを導入しないと決めることも、それと同じように国の将来を左右する判断だというのです。

「使わないという選択肢はないと考えます。ここから生まれる経済成長や人々への恩恵、国にとっての価値は、無視するには大きすぎます」とアルトマン氏は語ります。

 電気にも危険はありましたが、社会は比較的短い時間で安全に扱う方法を身につけました。いまは照明のスイッチを入れて点かないと苛立つくらい、存在を意識しない設備になっています。

 10年後にはAIという言葉を口にする回数が減る、というのがアルトマン氏の予測です。いま育っている子どもはAIより賢くなることはないものの、身の回りの製品やサービスが賢くて役に立つのが当たり前という世界しか知らずに育ちます。アイデアが浮かべばすぐ形にでき、病気にかかれば治療法が早く見つかる状態を、当然のものとして期待するようになるというのです。

 2020年の初めに世界でもっともトークンを使っていたのはOpenAIの社員で、その量は月10万トークン程度でした。2026年半ばに把握できている最大の利用者は月に数千億トークンを使っており、6.5年で数百万倍まで増えた計算になります。他の平均的な人の利用量も、実質0から月10万トークンへ動きました。この伸びがそのまま続くとすると、次の6.5年で1人あたりの平均は月1000億トークン、最大の利用者は月10京トークンに届きます。チップやアルゴリズムの効率改善は続くとしたうえで、それでもインフラの増設なしには追いつかないとアルトマン氏は言い切りました。安く潤沢に使える状態を保つための投資だというのです。

3カ月分の起業の作業が17分に縮む世界で変わる創業者の条件

 ChatGPTが公開されて間もない2023年、アルトマン氏の記憶に強く残ったのは、コインランドリーを経営する男性の話でした。経営がうまくいっていなかったその人は、マーケティング資料の作成や法務契約の助言、取引先との関係の管理まで、ひととおりをChatGPTでこなしていました。当時のChatGPTは今から見れば粗い出来でしたが、1人では回せなかったはずの商売がそれで回っていた点に驚いたと振り返っています。

 2025年には、コーディングエージェントやホワイトカラー業務向けのエージェントの登場で、この動きが加速しました。次に来るのは、長期間にわたって文脈を保ったまま働き続ける、本物の同僚のようなエージェントだとアルトマン氏は見ています。

 新しいモデルについては、世界がこれまで見たことのない規模の起業ブームと小規模事業の誕生をもたらすと述べました。良いアイデアがあっても、資金を集められないことや専門家を雇えないこと、複雑なサプライチェーンを回せないことを理由に諦めていた人が、AIで前に進めるようになるためです。

 アルトマン氏がかつて率いていたスタートアップアクセラレーターでは、3カ月間のプログラムで創業チームに一定の成果を求めていました。その3カ月分の作業が、いまではCodexを使えば17分ほどでこなせる水準になったといいます。

 4月末のStripe Sessionsでは、創業チームに求める条件の変化にも触れました。かつてのシリコンバレーでは、アイデアだけを持ってきて「コードを書く人さえいれば」と言う人は笑われる対象で、Y Combinatorでも技術者のいないチームは通りにくいとされていました。いまはユーザーを深く理解していてコードがまったく書けない人にも投資したい、とアルトマン氏の立場は変わっています。

ステージ上の椅子に座り対談するサム・アルトマン氏とパトリック・コリソン氏技術者のいないチームが敬遠された時代からの転回を、アルトマン氏はStripe Sessionsで語りました。画像はStripe Sessions 2026の公式サイトより。

AIに何を頼むかという問いを引き受けるのは利用者

 G20の対談でラトニック氏は、どれほど優秀なAIが使えるようになっても、何を任せるべきか分からなければ、その能力を生かせないのではないかと問いかけました。アルトマン氏の答えは、その部分はOpenAIからは出てこないし、出すべきでもない、というものでした。エンジンとしてのAIは提供するけれども、何に向けて使うのか、どの問題にぶつけるのか、その社会や企業で何が重要なのかを見きわめる仕事は、世界の人たちが担うべきなのです。

 Stripe Sessionsで名前が挙がったのは、Shopifyのトビ・リュトケ氏でした。会社の運営そのものをAIに全面的に寄せると宣言した最初のCEOで、自ら手を動かして社内業務の自動化を作り込んだ人です。社内にランキングを掲げるようなゲーム化された施策とは違い、経営トップが全社の業務にAIを入れると言い切り、実際に守らせた点が結果につながっています。

 アルトマン氏は、会議の録音やコードベース、Slackのメッセージ、メールなどをAIに読み込ませ、全社員が社内情報を横断的に参照しながらAIを使えるようにしている企業の例も紹介しています。機微なデータや社内手続きを抱える大企業には難しく推奨まではしないと断ったうえで、プライバシーと効率の折り合いを世界がどう付けるかは分からず、規制も変わる必要があると述べました。

 Stripeが投資会社のParadigmとともに立ち上げたブロックチェーンのTempoでは、数十人規模のチームがSlackとAIエージェントを連携させ、日常業務のほぼすべてを自動化しています。Google Docsを読ませてLinearのタスクに変換し、実装のプルリクエストを書かせ、デプロイまで進め、ログ解析ツールで動作を検証させるところまで任せています。1つのSlackチャンネルで組織が丸ごと動く様子を見たコリソン氏は、Stripeの規模にそのまま持ち込める気はしないと率直に話しました。頼めばだいたいのことは実現するという事実に多くの人の理解が追いついていない状態を、アルトマン氏は大きなオーバーハングと呼んでいます。

サイバーセキュリティと権力集中という2つの警戒点

 G20の対談でラトニック氏から、今後5年間のAI普及を妨げる要因を問われたアルトマン氏は、まずサイバーセキュリティを挙げました。各国政府や大小の企業と仕事をしている立場から、この問題を避けて通らずに急いで手を打つべきで、そうしなければ相当まずいことが起きると述べています。 バイオセキュリティも重要な課題として挙げており、今後はさらに深刻なリスクへの対応が必要になると見ています。リスクをうまく乗り越えられなければ、社会がAIを受け入れる速度そのものが落ち、技術の普及が大きく後退しかねません。

 権力の集中も、危うい方向として挙がりました。AIは本来なら世界を平等に近づける力になるはずで、教育へのアクセスをやり直せる可能性もあります。ところが、早い時期に投資できた者とできなかった者の差や、計算資源の配分の偏りから、恩恵が一部に集まる未来もあり得ます。

「AIを潤沢にすることに失敗すれば、それは激しく奪い合われるものになり、豊かな人たちが莫大な金額を投じるものになります。それは悪い結末です」とアルトマン氏は語ります。

 もっとも古い記録では、夜に1時間の明かりを得るために、当時の賃金で平均5時間の労働が必要でした。発電が広がって価格が下がり、白熱電球からLEDへと効率が上がって、いまは1時間分の電気代を気にする人がいません。この変化が起きていなければ、裕福な人だけが夜に勉強できて、学びの差が複利で開いていたはずだとアルトマン氏は指摘します。

 アルトマン氏は、火も大きな恩恵をもたらすと同時に、都市を焼き尽くすほどの危険を伴ってきたと指摘します。人々が危険を真剣に捉えたことで、防火のための制度や技術が整備され、事故から学ぶ仕組みも作られてきました。

 AIについてもリスクを警戒すること自体は必要で、事故を完全になくすことはできないとしています。そのうえで、5年前に一部で予想されていた破滅的な状況には至っておらず、現在のAIはおおむね安全で信頼できる水準にあるとの見方を示しました。

技術の歴史を1本の連続した指数関数として捉える視点

 子どものころのアルトマン氏は、農業革命や産業革命、コンピューターの登場をそれぞれ無関係な出来事として理解していました。いまは1本の連続した指数関数として眺めているといいます。前の世代が組んだ足場に新しいレンガを1つ置き、次の世代が少し高いところまで登っていきます。AIを作れるところまで来たのは過去のすべての積み重ねと社会全体で共有されてきた科学の成果があったからで、この先にはさらに大きなものが来て、人はAIを使ってその次を発明するとも述べました。

 人や事業にAIを行き渡らせなかった国では、次の足場を組む発明が生まれないとアルトマン氏は指摘します。どこかの段階で乗り遅れると、次の段階に進む準備が整いません。OpenAI自身の立ち位置については「pragmatic centrists(現実的な中道)」という言葉を使い、盲目的な楽観にも破滅論にも寄らず、各国の主権を尊重しながら壊滅的なリスクだけは制約すると述べました。

 人が経済や社会の中心にいて、人がAIの未来を運営するべきだという立場も明言しています。読者がまず考えるべきなのは、自分の仕事のどこをAIに任せるかという設計であり、その設計を誰が引き受けるのかという分担の話でもあります。 AIを使わない国や企業がなぜ不利になるかを4点で図解したインフォグラフィック。国のインフラ化・起業ハードル低下・使い道は人が決める・リスクへの備えの要点をまとめている

星川アイナ
【著者プロフィール】 星川アイナ ほしかわ あいな AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。
柳谷智宣
【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。