「AIスロップ」とは?職場に広がる低品質AI生成物と各国・各社の対策を解説

「AIスロップ」とは?職場に広がる低品質AI生成物と各国・各社の対策を解説

📌 この記事の要約

  • 「AIスロップ」が国際的に流行語に AIによる低品質な生成コンテンツを指す「スロップ」は2025年、マッコーリー辞書やメリアム・ウェブスターなど複数の辞書・言語団体で「今年の言葉」に選ばれた。

  • 職場にも広がるAIスロップ マイクロソフトのライアン・ロスランスキー氏は、内容を確認しないまま送られてくるAI生成文書が職場の日常に入り込んでいると指摘し、これを「悪循環」と表現した。

  • 出版・開発現場では受け手が先に音を上げた Clarkesworldは投稿禁止者の急増で新規受付を停止、curlの開発者も誤ったAI生成の脆弱性報告に「実質DDoS攻撃」と警鐘を鳴らした。

  • 各社・各国が流通と表示の両面で対策 SpotifyやDeezer、YouTubeは大量投稿や収益化を制限し、中国やEUはAI生成物への表示義務化を進めている。

AIが書いた文書が仕事で届きました。ところが、読んでも新しい考えは何もありませんでした。マイクロソフトでOfficeやOutlook、Teams、LinkedInを統括するエグゼクティブバイスプレジデントのライアン・ロスランスキー氏が2026年8月31日、LinkedInで明かした体験です。AIによる低品質コンテンツ「AIスロップ」は、SNSだけでなく職場の日常にも入り込み始めています。

スロップ(slop)は2025年、辞書や言語団体がその年を象徴する「今年の言葉」に相次いで選ばれました。オーストラリア英語の代表的な辞書であるマッコーリー辞書が2025年11月に「AIスロップ」を、米国の老舗辞書メリアム・ウェブスターが12月に「スロップ」を選んでいます。メリアム・ウェブスターの定義は「人工知能によって、たいていは大量に作り出される低品質なデジタルコンテンツ」です。米国方言学会も2026年1月、2025年の「今年の言葉」にスロップを選びました。

スロップは、ネット上にあふれる低品質なAI生成物を指す言葉として広まりましたが、いまではメールや社内文書など、仕事でやり取りするコンテンツにも使われるようになりました。今回は、生成AIのネガティブな副産物である、この「AIスロップ」について解説します。

マイクロソフトのライアン・ロスランスキー氏によるAIスロップを巡るLinkedIn投稿画面OfficeとLinkedInを統括するライアン・ロスランスキー氏は、職場に入り込んだAIスロップを悪循環と表現しました。

AIを使っただけでは「スロップ」にならない

AI生成物を「スロップ」と呼ぶ用法は、2022年ごろから4chanやHacker News、YouTubeのコメント欄などで使われ始めました。広く知られるきっかけの一つになったのが、英国のプログラマーであるサイモン・ウィリソン氏です。2024年5月8日、自身のブログで「スロップ」を不要なAI生成コンテンツを表す言葉として支持しました。

ウィリソン氏が問題視したのは、AIを使うこと自体ではありません。人が内容を確認しないまま生成したものを、それを求めていない相手に送りつける行為です。すべての宣伝がスパムではないのと同じように、すべてのAI生成物がスロップになるわけではないと説明しています。

同氏はその後、Guardianの取材で「この問題に名前が付くことは本当に重要だ」と語りました。迷惑な宣伝メールを「スパム」と呼ぶことで問題を共有しやすくなったように、「スロップ」という言葉が広まれば、人が確認していないAI生成物を相手に押し付ける行為を問題として認識しやすくなると考えたのです。

ある日、ロスランスキー氏のもとには、頼んだ覚えのない資料が届きました。体裁は整っているのに読み進めても新しい論点は出てこず、書いた本人が中身を吟味していないことだけが伝わってきます。似た文書が日々何通も回ってくれば、読む価値があるかどうかを見極めるだけでも、受け手の時間が削られていきます。

「AIスロップはSNSだけで起きているのではなく、日々の仕事でも起きている」と同氏は書いており、気をつけなければ、書いたり読んだりすることを避けるためだけに多額のコストを払うことになると警告しました。この投稿には、マイクロソフト社長のブラッド・スミス氏も「いいね」のリアクションを付けています。

サイモン・ウィリソン氏のブログ記事「Slop is the new name for unwanted AI-generated content」のスクリーンショットスロップという呼び名を広めたのは、2024年5月に公開されたサイモン・ウィリソン氏のブログ記事です。

出版と開発の現場では受け取る側が先に音を上げた

SF雑誌のClarkesworldは、2023年2月20日の午前中に小説作品の投稿受け付けを停止しました。その月に入ってから20日までに、機械が書いた投稿を送って出入り禁止になった人が500人を超えたためです。投稿を禁止した人数は2022年の秋まで月20人を下回っていたのに、11月に25人、12月に50人、2023年1月には100人を超えました。編集部は検出ツールの導入も検討しましたが、精度が足りないと判断して見送っています。稼げると聞いてChatGPTに書かせた原稿を送りつける人が増えただけで、雑誌が求めていた作品は1本も増えませんでした。

Amazonも2023年9月、自費出版サービスで新刊の投稿を1日3冊までに絞り、AIを使った場合の申告を義務づけました。同じころ問題になったのが、キノコの採取ガイドを装った本です。においや味で食べられるかどうかを見分けるよう勧める記述まであり、ニューヨークの菌類学会は著者の素性がわかる本だけを買うよう呼びかけました。読み物の質という次元では済まず、命に関わる誤情報が売り場に並んでしまったのです。

米国の日刊紙に2025年5月18日、夏の読書リストとして15冊の本が掲載されました。そのうち実在した本は5冊だけで、残りは実在の作家に架空の書名を組み合わせたものだったのです。書名を作り出したのはAIですが、制作した契約ライターも、原稿を受け取った編集側も、誰ひとり本の実在を確かめないまま印刷まで進みました。AIの誤りと人の手抜きが重なると、スロップは紙の上にも出てきます。

ニュースサイトを装ったAI生成のサイトは、2023年5月の49件から2026年6月には3749件へ増えました。ありふれた名前を掲げ、既存の記事を書き換えただけの文章を並べるサイトがほとんどです。SNSにも同じ波が来ており、Facebookではエビとキリストを合成したような奇妙なAI画像が2024年ごろから大量に流れました。作り手の多くは広告収益を狙うアカウントで、広告単価の高い米国の利用者に向けて発展途上国から量産しています。

ソフトウェア開発の現場でも、事情は同じです。Web通信に広く使われているオープンソースソフト「curl」には、外部の研究者から脆弱性の報告が寄せられます。ところが2025年、AIで作ったもっともらしい報告が増え、実際には存在しない脆弱性の検証に開発者の時間が奪われるようになりました。

厄介なのは、報告の体裁が整っているため、読まずに捨てるわけにはいかないことです。開発チームはコードを調べ、攻撃を再現できるか確かめてから、ようやく誤報だと判断できます。こうした状況を受け、開発を率いるダニエル・ステンバーグ氏は2025年5月、「限界を超えた。実質的にDDoS攻撃を受けている」とまで表現しています。その後はAIを活用して本物の問題を見つけた報告も評価しており、AIの利用そのものではなく、内容を確かめずに送りつける行為を問題視しています。

Clarkesworldへの投稿禁止者数が2023年2月に急増したことを示す棒グラフ *Clarkesworldが投稿を禁止した人数は2023年に入って急増し、2月には500人を超えました。*

AIスロップ対策は流通と収益化を絞る方向へ

AIを使えば、楽曲や動画、文章をこれまでとは桁違いの量で作れます。そこでサービスを運営する側は、AIによる生成そのものを禁止するのではなく、低品質なコンテンツが大量に流通したり、収益を生んだりする仕組みを抑える方向へ動き始めました。

Spotifyは2025年9月25日、過去12か月でスパム的な楽曲を7500万曲以上削除したと明らかにしました。大量投稿や重複、極端に短い楽曲などを検出するフィルタを強化し、不正と判断した楽曲は推薦やプレイリストからも外す方針です。削除した7500万曲すべてがAI生成だったわけではなく、AIを使った楽曲自体を排除する措置でもありません。AIを使った楽曲そのものではなく、大量投稿などで不正に再生数や収益を得る行為を抑えるための対策です。

フランスの音楽配信サービスDeezerが選んだのは、利用者の目に触れる量そのものを減らす方法です。完全にAIで生成された楽曲を検出してラベルを付け、推薦やプレイリストから外す運用を2025年6月に始めました。2025年の1年間に検出した楽曲は1340万曲にのぼります。投稿そのものは受け付けても、通常の楽曲と同じようには拡散させない仕組みです。

YouTubeも、量産すれば稼げる仕組みに手を入れました。2025年7月、収益化ポリシーの「繰り返しの多いコンテンツ」という表現を「不誠実なコンテンツ」へ改め、テンプレートを使って大量生産した動画は収益化の対象にならないことを明確にしています。先に見たAmazonが新刊の投稿を1日3冊までに制限したのも、入り口から大量投入を抑える対策でした。

さらに、Wikipediaでは有志がAI生成とみられる記事を洗い出して削除しています。curlが2026年1月末で脆弱性報告への賞金制度を終了したのも、大量の低品質な報告を送る動機を減らすためでした。作るコストを生成AIが大幅に下げた以上、受け手が一件ずつ処理するだけでは追いつきません。そこで、投稿量を制限する、推薦から外す、収益化しない、報酬をなくすといった方法で、スロップが大量に届く仕組みそのものを変えようとしているのです。

Spotifyのアーティスト向けAI対策強化を発表する記事ページSpotifyは過去12か月で7500万曲を超えるスパム的な楽曲を削除したと公表しました。

各国はAI生成であることの表示を義務づけ始めた

中国では2025年9月1日、AIで作った画像や動画、音声、文章などに、その事実を示す表示を義務づける規則が施行されました。対象となるのは、利用者の目に見える「AI生成」などの表示だけでなく、メタデータや電子透かしに埋め込むAI生成情報も含まれます。さらに、配信プラットフォーム側にも、こうした情報を確認して利用者に示すことが求められます。AI生成物を作る側だけでなく、配信する側にも対応を求める仕組みです。

EUでは2026年8月2日、AI法の透明性に関するルールが適用されました。生成AIの提供企業に課されるのは、AIで作った文章や画像、音声、映像を機械で判別できるよう、出力にマーキングを施す義務です。また、ディープフェイクや、人による確認を経ていない公共的な関心事のAI生成テキストを公開する場合には、AI生成であることを利用者に明示する必要があります。2026年8月2日より前に提供されていたAIシステムには、マーキングへの対応について12月2日まで猶予が設けられています。

この規制は、実際の生成AIにも変化をもたらしました。AnthropicはEU AI法への対応として、Claudeの新しい対応モデルが生成する文章に、機械で検出できる透かしを入れています。2026年9月に公開したFable 5.1やMythos 5.1も対応しており、隠し文字を加えるのではなく、文章を生成するときの単語選択に一定のパターンを持たせる仕組みです。画像などの生成ファイルには、作成元を記録するC2PAの来歴情報も付与します。

もっとも、ラベルや透かしが示せるのは、AIが関わったかどうかまでです。人が目を通したか、受け手がそれを求めていたかは、どんな印にも書き込めません。スロップと呼ばれる3つの条件のうち、表示義務が押さえているのは1つだけです。それでも出どころが分かれば、大量投稿を続けるアカウントを追いやすくなり、プラットフォーム側が量を絞る作業も進めやすくなります。

EU AI法第50条の透明性義務に関するガイドラインを掲載したページEUではAI法第50条の透明性義務が2026年8月2日から適用され、欧州委員会がガイドラインを公開しています。

負担は確かめる側へ移ったという前提で手順を組み直す

AIスロップの厄介なところは、送り手が省いた手間を受け手が引き受けることです。BetterUp Labsとスタンフォード大学のSocial Media Labが2025年、米国のフルタイムのデスクワーカー1150人を調査したところ、40%が過去1か月に職場で低品質なAI生成物を受け取ったと回答しました。受け手が内容を確認し、修正したり不足を補ったりするのにかかる時間は、1件あたり平均1時間56分。1人あたり月186ドルの生産性損失に相当すると試算されています。

負担は時間だけではありません。42%は、こうしたAI生成物を送ってきた相手への信頼が下がったと回答しています。仕事では送り手が同僚や上司であることも多く、迷惑メールのように無視できないのも厄介なところです。

職場でAIスロップを防ぐには、送信前の確認を「誤字がないか」だけで終わらせないことが重要です。AIで下書きや要約を作ったら、「この資料で相手は何を知り、何を判断できるのか」を自分で答えられる状態にしてから渡します。答えられないなら、体裁が整っていても送る価値はありません。生成AIで作る手間が下がった時代ほど、何を作るかより、何を送らないかを決める力が求められます。

AIスロップで確認の負担が受け手に移る仕組みを示す解説インフォグラフィック
星川アイナ
【著者プロフィール】 星川アイナ ほしかわ あいな AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。
柳谷智宣
【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。