- 【著者プロフィール】 相坂ソウタ あいさか そうた AIライター
- こんにちは、相坂ソウタです。AIやテクノロジーの話題を、できるだけ身近に感じてもらえるよう工夫しながら記事を書いています。今は「人とAIが協力してつくる未来」にワクワクしながら執筆中。コーヒーとガジェット巡りが大好きです。
- 【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
- ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。
📌 この記事の要約
-
AGIの次に問われるのはASIへの道筋
Google DeepMindの研究者らは、AGIの先にあるASIへの移行を複数の経路で整理しました。 -
ASIは人間の専門家集団を超える知能
報告書では、ASIを大規模で統率された専門家チームをほぼあらゆる分野で上回る水準として捉えています。 -
4つの経路と6つの壁が示された
規模拡大、パラダイム転換、再帰的自己改善、マルチエージェント集団という4つの道と、データや抽象化などの壁が論点です。 -
AGIは一度きりの変化では終わらない
報告書は、AIによる社会変化が一回の転換点ではなく、連続した変化として進む可能性を示しています。
人間と同等の知能を持つAGI(汎用人工知能)の実現が、遠い空想ではなく今後十年ほどの現実的な目標として語られるようになりました。ではAGIに到達したあと、AIの進歩はどこへ向かうのでしょうか。
Google DeepMindのTim Genewein氏らは、2026年6月10日に公開した報告書「From AGI to ASI」で、人間レベルのAGIの先に広がるASI(人工超知能)への道筋を整理しています。著者には、AIの知能を測る理論で知られるShane Legg氏やMarcus Hutter氏も名を連ねます。報告書は冒頭で、読者に対してお気に入りのAIアシスタントに要約を頼むよう勧めるという、変わった一節から始まります。
Google DeepMindのTim Genewein氏らが2026年6月10日に公開した報告書「From AGI to ASI」です。
ASIは大勢の専門家チームをあらゆる分野で上回る知能を指す
報告書はまず、AGIとASIをそれぞれどう捉えるかを示しました。AGIは、多くの認知的なタスクでおおむね人間の中央値に達する知能を指します。現在のAIはすでに多くの面で人間を超えていますが、全体としての汎用性がまだ足りないため、最初のAGIも多くのタスクで人間を上回ると見られています。
一方のASIは、大規模で十分に統率された人間の専門家集団を、ほぼあらゆる分野で上回る知能と位置づけられています。たとえば数万人の専門家が十年かけて取り組むような課題を安定してこなせる水準であり、報告書はあえて高い基準を置いています。
両者の境目を厳密な数値で線引きする必要はない、というのが著者らの立場です。知能を連続的な量として測るLegg-Hutterスコアを手がかりに、AGIとASIの間に意味のある開きがあることのほうが、技術的な道筋を論じるうえで大切だと考えています。
AIが人間と決定的に違うのは、その動作を記述したプログラム、つまりソースコードが分かっている点です。同じAIは十分に強力なコンピューターであればどこでも動かせますし、新しい機材へ移すことも、停止や再開も自在にできます。コードだけでなく記憶の状態まで丸ごと複製できるため、必要なときに多数の専門家インスタンスを瞬時に増やせます。学習で得た経験も保存して共有でき、構成が同じインスタンス同士なら学習の信号そのものをやり取りすることも可能です。
入出力の帯域や記憶容量はすでに人間を大きく上回っており、こうした強みは計算資源が増えるほど拡大して、人間との差を押し広げていきます。報告書は、一つのASIが数百万のインスタンスの集まりとして並行して世界に関わる姿もありうると述べています。
補足
ここでいうASIは、単に「一人の天才AI」ではなく、複製、並列化、記憶共有、学習共有を前提にした知能の集合体として考える必要があります。
AGIから超知能ASIへ進む道は大きく4つに分かれる
報告書は、AGIからASIへ進む技術的な道筋を4つ挙げています。一つ目は、計算資源とモデルと学習データを増やし続ける規模の拡大です。過去十年あまりの進歩を支えてきた路線であり、4つの中で唯一、過去のデータから予測モデルを当てはめられる経路でもあります。
ハードウェアの性能向上が年あたり約1.5倍、計算資源への投資が約2.5倍、アルゴリズムの効率改善が約3倍で進んできた結果、これらを掛け合わせた実効的な計算量はおおよそ年10倍、つまり一年で一桁の規模で伸びていると見積もられています。ただし、計算量の増加がそのまま新しい能力につながるのか、それともどこかで頭打ちになるのかは、まだはっきりしていません。
二つ目は、アルゴリズムの土台そのものを大きく変える革新です。大規模なモデルを事前学習させて微調整を重ねるという現在主流のやり方とは異なる、新しい設計思想や学習手法が現れる可能性を指します。性質上、いつどんな形で起きるかを予測するのは難しい経路です。
三つ目は、AIがAIの研究開発を助けることで次の世代のAIが生まれ、それがさらに研究を加速させるという再帰的な自己改善です。この循環が強く働けば、成長率そのものが上がり続け、有限の時間で発散するシンギュラリティと呼ばれる事態に至る可能性も理論上は否定できません。
四つ目は、多数のAGIが集団を組むことで、個々の能力を超えた知能が立ち現れる経路です。人間が組織や市場を通じて個人以上の成果を上げるのと同じ構図を、AIがはるかに高い帯域と速度で実現する姿が想定されています。集団をどう組織すれば全体として人間を超える知能になるのか、どのような問題でそれが成り立つのかは、規模拡大とは別の論点として残されています。これら4つは互いに排他的ではなく、並行して進む可能性が高く、組み合わさって相乗的に作用することも考えられます。
4つのAGIからASIへ進む技術的な道筋。
AIの進歩を阻みかねない壁が6つ立ちはだかる
4つの経路には、進歩を遅らせたり止めたりしうる摩擦も伴います。報告書はそれを6つ挙げ、それぞれが致命的な壁なのか、速度を落とすだけの摩擦なのかは、現時点では研究で確かめるべき問いだと位置づけています。
一つ目はデータの壁です。モデルの大型化に対して、学習に使える質の高い文章の増加が追いつかず、その枯渇は2020年代のうちに訪れると見積もる研究もあります。これに対しては、合成データや高精度のシミュレーション、AI同士の対戦や試行錯誤を通じた自己生成データが対抗策になりえます。
二つ目は、規模拡大に必要な投資や半導体、電力、希少資源などの伸びが追いつかなくなる可能性です。
三つ目は、大規模な事前学習を軸とする現在の手法自体がAGIに届かない可能性です。
四つ目は、分野が成熟して新しいアイデアがますます見つけにくくなるという、研究そのものの難化です。
とりわけ目を引くのが、五つ目の「抽象化の壁」です。Lerchner氏が唱えるこの仮説は、人間が作った概念を大量に学んだAIは、生のデータから全く新しい概念や抽象を自力で生み出せないのではないか、というものです。報告書は、もし産業革命より前、ニュートン以前の科学知識だけで現代と同じ量のデータを学習させたら、そのAIは微積分や万有引力という概念を持たないまま一般相対性理論にたどり着けるだろうか、と問いかけます。もしこの壁が本物なら、知能の伸びは計算資源の拡大ではなく、実験で確かめる実証科学の速度に縛られることになります。
六つ目は、事故や社会の反発、規制や軍事・政治上の判断による意図的な減速です。各国がそろって足並みを揃える国際協調は歴史的にまれであり、競争の圧力が減速の動きを押し戻すこともあると指摘されています。
AIの進歩を阻む可能性がある6つの壁。
本物の超知能が現れても人間はそれと気づけないかもしれない
もっとも、人間を大きく超えたとしても、ASIが何でも知り何でもできるわけではありません。報告書は、光速や計算に伴うエネルギーの下限、計算量理論におけるP対NPの問題、ゲーデルの不完全性定理や停止性問題といった、どんなに高度な知能にも課される根本的な限界を整理しています。
AIの理論的な上限そのものは、Hutter氏が定式化したAIXIという枠組みでよく理解されています。これは計算可能なあらゆる課題で平均的に最適とされる理論上の知能ですが、実際には計算できず、より強力なAIによって下から近似していくしかありません。
では、規模を広げた先に現れるのが本物のASIなのかを、どう見極めればよいのでしょうか。報告書は創造性を一つの手がかりとして挙げます。認知科学者のMargaret Bodenは、創造性を3つの段階に分けました。既存の要素を組み合わせる段階、決められた枠組みの中で新しいものを見つける段階、そして枠組みそのものを新しく作り出す段階です。
2016年に『AlphaGo』がイ・セドル九段との対局で見せた37手目は、二番目の探索的な創造性の例とされます。タンパク質の構造を予測した『AlphaFold』など、これまでのAIの成果も主に1段階目と2段階目にとどまる、というのが報告書の見立てです。三番目の、概念の枠組みごと生み出す変革的な創造性こそが、真のASIの証になるという見方です。
Google DeepMindのDemis Hassabis氏は、1900年ごろのアインシュタインと同じ情報だけを与えられたAIが一般相対性理論を自力で導けるか、という問いを「真の試金石」として示し、今の答えは「ノー」であり、まだ何かが欠けていると述べています。報告書ではさらに、人間を超えた汎用的な性能を測る物差しがそもそも存在しないため、ASIに到達してもそれと気づけない恐れがあるとも指摘しています。
変化はAGIで一度起きて終わりではなく次々と続いていく
報告書が繰り返し強調するのは、未来は予測できないという前提です。だからこそ、一つの筋書きや時期に賭けるのではなく、幅のある複数のシナリオを用意し、観測を続けながら見通しを更新していく姿勢が大切になります。
AGIという一点で社会が一段だけ階段を上る、という見方はむしろ不正確かもしれません。科学や技術の各分野で起きる進歩が連なり、変化が次々と訪れる未来のほうが現実に近い、と著者らは見ています。仮に個々のモデルの進歩が人間並みで止まったとしても、多数のインスタンスを束ねた集団としては人間を超える能力に届く可能性が高い、という見立ても示されています。
必要なのは、人間の水準を超えても飽和しない評価方法と、計算資源の伸びと能力の関係を捉える予測モデルづくりであり、これらは一企業の課題にとどまらず、分野を越えた世界規模の取り組みを要します。AIの進歩をどう測り、どう備えるか。読者であるわたしたち自身が、その問いを自分の仕事や暮らしに引き寄せて考える時期に来ているのかもしれません。
AGIからASIへの道筋と、進歩を阻む壁、評価の難しさを整理した解説画像です。