Sakana Fuguの新モデル比較|低コストのMaxと高性能のUltra v2が登場

Sakana Fuguの新モデル比較|低コストのMaxと高性能のUltra v2が登場

📌 この記事の要約

  • Fuguは複数のAIモデルを1つのAPIとして利用できる仕組み 課題に応じてモデルの選択、役割分担、結果の検証と統合までを自動化します。

  • Fugu Maxはコスト効率を重視 多数のオープンウェイトモデルや特化型モデルを束ね、入力2ドル・出力6ドル/100万トークンで提供されます。

  • Fugu Ultra v2は難しい作業の回答品質を優先 多段階推論、自律的なリサーチ、フルスタック開発などの高難度タスクを想定しています。

  • ブラウザーとAPIの両方から試せる Fugu Maxは無料のSakana Chat、Fugu Ultra v2はAPIプラットフォームから利用できます。

 生成AIの開発競争は、より大きく高価なモデルを作る方向で進んできました。『Sakana AI』は、この流れとは別の道を選んでいます。中心となるのが、複数のAIモデルに役割を割り振って連携させるオーケストレーションシステム『Sakana Fugu(サカナ・フグ)』です。2026年9月11日には、コスト効率を重視した『Fugu Max』と、性能を追求した『Fugu Ultra v2』が同時に公開されました。

 9月17日には無料のチャットサービス「Sakana Chat」にもFugu Maxが搭載され、APIを扱わない人でも試せる環境が整っています。本稿では、Fuguの基本やこれまでのアップデートの流れ、最新モデルの性能と料金、実際の試し方をまとめて解説します。

Fugu MaxとFugu Ultra v2の概念図Fugu MaxとFugu Ultra v2が、単一のモデルでは届かないコストと性能の領域を広げることを示した公式の概念図です。

複数のAIを1つのモデルとして呼び出せるSakana Fuguの仕組み

 Sakana AIは2023年7月に設立された東京のAI研究開発企業です。Google Brainで日本の研究チームを率いたデイビッド・ハ氏がCEO、伊藤錬氏が共同創業者兼会長を務め、現在の生成AIの土台となった技術「Transformer」の論文の共著者として知られるライオン・ジョーンズ氏がCTOに就いています。同社は創業以来、巨大な1つのモデルに頼らず、複数のモデルを協調させる「集合知」の研究を続けてきました。Sakana Fuguは、この研究を商用プロダクトにまとめたものです。

 背景には、AIモデルごとに得意分野が異なるという事情があります。数学に強いモデルもあれば、プログラムの不具合探しが得意なモデルもあり、最良の結果を得るには課題ごとの使い分けが欠かせません。ただし、複数のサービスと契約し、問題ごとに最適なモデルを選び続ける作業は、利用者にとって大きな負担です。

 Fuguはこの使い分けを自動化します。利用者が1つの窓口にリクエストを送ると、Fugu自身が言語モデルとして内容を読み取り、単独のモデルで解くか、複数のモデルでチームを組むかを判断します。モデルの選択や作業の割り振り、結果の検証、回答の統合までを内部で処理するため、外からは1つのモデルを呼び出しているようにしか見えません。公式サイトは、この性格を「マルチエージェントを、一つのモデルAPIとして提供」と表現しています。

補足

利用者は複数のAIを個別に選ぶのではなく、Fuguという1つの窓口へ依頼します。内部のモデル選択や役割分担はFugu側が担います。

 技術の土台は、国際会議ICLR 2026に採択された2本の論文「TRINITY: An Evolved LLM Coordinator(TRINITY:進化したLLMコーディネーター)」と「Learning to Orchestrate Agents in Natural Language with the Conductor(Conductorによる自然言語でのエージェント・オーケストレーションの学習)」です。

 TRINITYでは、進化的アルゴリズムで最適化した調整役が、複数のAIに役割を割り振って連携させる手法を示しています。一方のConductorでは、強化学習によって、どのAIに何を依頼し、どの情報を共有するかという連携戦略そのものを学習します。人間があらかじめ手順を固定せず、課題に応じてAI側がチーム構成や役割分担を変えるという考え方が、Fuguにも受け継がれています。

Sakana Fuguのアーキテクチャ概要図Sakana Fuguのアーキテクチャ概要図です。利用者からは1つのモデルに見えますが、内部では複数のモデルが連携しています。

βテストから5カ月足らずで4モデルに広がったラインアップ

 Fuguの歩みは速く、最初の発表から5カ月足らずで現在の形になりました。Sakana AIがβテスターの募集を始めたのは2026年4月24日です。6月22日には一般提供が始まり、性能と応答速度のバランスを取った標準の「Fugu」と、難しい課題での回答品質を優先する初代の「Fugu Ultra v1.0」の2モデルが公開されました。βテストには500名近くが参加し、他のツールが3件ほどしか指摘しなかったコードレビューで、Fugu Ultra v1.0は20件以上の問題を洗い出したという利用者の声も紹介されています。

 一般提供の発表で同社が強調したのは、特定のAI企業に依存するリスクでした。米政府が6月12日、Anthropicの「Fable 5」と「Mythos 5」について外国人のアクセスを制限する輸出規制を課し、Anthropicが対応のため両モデルへのアクセスを一時停止した例を挙げています。規制は6月30日に解除され、Fable 5は翌7月1日に世界向けの提供を再開しました。一方、Mythos 5は当初、米国内の一部組織に限ってアクセスが再開されました。

 Fuguは背後で使うモデルを入れ替えられる設計です。同社は、ある提供元が利用を制限した場合でも別のモデルへ切り替えられるため、特定ベンダーへの依存によるリスクを抑えられると説明しています。こうした性質を、AI主権(自国や自社でAIの利用を制御できる状態)を支える選択肢と位置づけました。

 7月16日にはSakana AIがNVIDIAとの協業拡大を発表し、NVIDIAのオープンモデル「Nemotron」をFuguの専門エージェントとして組み込む方針を示しました。7月21日にはサイバー防御に特化した「Fugu Cyber」が登場しています。脆弱性の検証能力を測るCyberGymで86.9%、脅威情報から検知ルールを作る能力を測るCTI-REALMで72.1%の成功率を記録した一方、悪用を防ぐため利用には申請と審査が必要です。

 7月24日にはFugu Ultra v1.0が価格据え置きでv1.1に更新され、コーディング支援ツールのClaude Codeから呼び出せる接続方式も加わりました。8月13日にはFugu Ultra v1.1がSakana Chatでも利用できるようになり、9月11日にはFugu Ultra v2への更新とFugu Maxの追加が行われました。現在は標準のFugu、現行版のFugu Ultra v2、Fugu Max、Fugu Cyberという用途の異なる4モデルが用意されています。

用途の異なるSakana Fuguの4モデル現在のSakana Fuguには用途の異なる4つのモデルがあり、同じAPIのまま切り替えて使えます。Fugu Ultraの現行版はv2です。

コスト重視のFugu Maxと性能重視のFugu Ultra v2の違い

 9月11日に公開された2つのモデルは、同じオーケストレーションの仕組みを別々の目的に合わせて調整したものです。Sakana AIは、AIの実力は性能とコストの2軸で見るべきだとしています。簡単なデータ検索に数兆パラメーター級の巨大モデルを使うのは無駄が大きく、課題に応じて必要十分なモデルを使い分けるべきだという考え方です。発表タイトルにある「パレートフロンティア」は、同じコストならより高性能、同じ性能ならより低コストという、効率のよい選択肢がつくる境界線を指します。今回の2モデルは、この境界をコストと性能の両方向へ広げることを狙っています。

比較項目Fugu MaxFugu Ultra v2
重視する点コスト効率回答品質
主な用途幅広いタスクを効率よく処理多段階推論、自律的リサーチ、フルスタック開発
入力料金100万トークンあたり2ドル100万トークンあたり5ドル
出力料金100万トークンあたり6ドル100万トークンあたり30ドル
モデルプール多数のオープンウェイトモデル・特化型モデル固定

 Fugu Maxは、これまでで最大のモデルプール(Fuguが呼び出せるAIモデルの集まり)を持ちます。Nemotronを含む多数のオープンウェイトモデルや特化型モデルを束ね、課題を解ける範囲で効率のよいモデルや組み合わせに処理を回す設計です。料金は100万トークンあたり入力2ドル、出力6ドルで、出力料金は「Sonnet 5」や「GPT 5.6 Terra」、「Kimi K3」より40~60%安いと説明されています。

 Sakana AIの評価では、同じ価格帯のモデルと比較した10のベンチマークのうち6つで最高スコアを記録しました。対象には、コマンド操作の能力を測るTerminal Bench 2.1や、科学分野の難問を集めたGPQA-Diamondなどが含まれます。また、10ベンチマーク中7つで、コストと性能のパレートフロンティアを広げたとしています。

 Fugu Ultra v2は、コストよりも回答品質を優先し、多段階の推論や自律的なリサーチ、フルスタックのソフトウェア開発といった難度の高い作業に向けた最上位モデルです。Sakana AIの評価では、8つのベンチマークのうちGDP.pdf、Chartography、DeepSWE、Toolathon、SWEFishの5つで単独または同率の最高スコアを取り、7つで上位2位以内に入りました。グラフや図表の読み解きを測るChartographyでは48.3、実際のソフトウェア開発能力を測るDeepSWEでは74.3を記録しています。

 しかも、この結果は「Fable 5」や「Fable 5.1」、「GPT-6-Astra」をモデルプールに含めない構成で得られました。料金は100万トークンあたり入力5ドル、出力30ドルと、出力の単価はFugu Maxの5倍です。コンテキストが27万2000トークンを超えると入力10ドル、出力45ドルに上がります。モデルプールは固定されており、標準のFuguのように利用者が特定のモデルや提供元を外すことはできません。なお、これらはSakana AIが公表した評価結果で、同社独自のコーディングベンチマーク「SWEFish」も含まれています。

補足

Fugu Maxはコスト効率、Fugu Ultra v2は難しい作業での回答品質を重視したモデルです。単純な上下関係ではなく、用途と予算で選び分けます。

Fugu Maxと同価格帯モデルの比較グラフFugu Maxと同価格帯のモデルを、料金とベンチマークのスコアで比較した公式のグラフです。

ブラウザーで試す方法とAPIで使う場合の料金体系

 最も手軽に試せるのはSakana Chatです。9月17日のアップデートで、搭載されるFuguが最新のFugu Maxに切り替わり、全ユーザーに提供されました。モデル選択メニューでFugu Maxを選ぶだけで使え、追加の設定は要りません。

 Sakana Chatは8月の更新で、Pythonコードの実行や成果物のプレビュー、画像・PDF・Officeファイルの添付に対応しました。Excelファイルを渡して四半期ごとの集計とグラフ化を任せるといった使い方ができます。9月の更新では、利用者の役割や文体の好みなどを次回以降の会話に引き継ぐメモリー機能も加わりました。Sakana Chatは無料で利用できますが、利用上限が設けられています。

 一方、性能を重視したFugu Ultra v2を使う場合はAPIプラットフォームを利用します。モデルIDは「fugu-ultra-v2.0」で、「fugu-ultra」と指定した場合も現在は最新版のv2.0が呼び出されます。そのため、旧版のv1.0やv1.1を明示的に指定する場合を除けば、Fugu Ultraを指定することで現行のv2を利用できます。

 自社のシステムや開発ツールに組み込む場合は、コンソールでAPIキーを発行します。OpenAI互換のResponses APIやChat Completions APIに加え、Anthropic互換のMessages APIからも呼び出せます。既存のGPTやClaude向けの開発環境にも組み込みやすく、すでにFuguを使っている場合は指定するモデル名を書き換えることで新モデルへ移行できます。コーディング支援ツールのCodexやClaude Codeなどから利用する方法も用意されています。

 APIプラットフォームの料金は、月額サブスクリプションと従量課金の2種類から選べます。

  • Standard:月額20ドル
  • Pro:月額100ドル(Standardの10倍の利用枠)
  • Max:月額200ドル(Standardの20倍の利用枠)

 プラン名のMaxはモデルのFugu Maxとは別物で、どのプランでもFugu、Fugu Ultra v2、Fugu Maxを利用できます。なお、これらはAPIプラットフォーム向けの料金プランで、Sakana Chatとは別のサービスです。

 本格的な利用向けには、トークン使用量に応じて支払う従量課金プランも用意されています。標準のFuguでは、複数のエージェントが動いてもモデルごとの料金が積み上がるわけではなく、利用するモデルプールのなかで最上位にあたるモデルを基準に1つの料金が適用されます。Fugu Cyberの料金は個別の問い合わせが必要です。また、GDPRなどへの対応を進めているため、EUとEEA(欧州経済領域)の域内では現在Sakana Fugu自体が提供されていません。

Sakana Chatのモデル選択メニューSakana Chatのモデル選択メニューです。Fugu Maxを選ぶだけで、最新のオーケストレーションモデルをブラウザーから試せます。

単体モデルの性能だけでなくオーケストレーションを見る評価へ

 Fuguが変えようとしているのは、生成AIの性能を「どのモデルを使うか」だけで考える発想です。Fuguでは、課題に応じて複数のモデルを選び、役割を振り分け、結果をまとめるところまでが1つのシステムになっています。Sakana AIは、新しいフロンティアモデルが一般公開されると約2週間をかけてFuguを再学習・評価し、取り込む方針を示しています。利用者側が新モデルの登場ごとにサービスを乗り換えたり、用途別にモデルを選び直したりするのではなく、その作業自体をFuguに任せようというわけです。

 そうなると、生成AIサービスを比べる際に見るべきものも変わってきます。個々のモデルのベンチマークだけでなく、安価なモデルと高性能なモデルをどう使い分けるのか、新しいモデルをどれだけ早く取り込めるのか、性能とコストをどこまで両立できるのかも重要になります。Fugu MaxとFugu Ultra v2は、モデルそのものの競争から、複数のAIをどう束ねて使うかというオーケストレーションの競争へ移りつつあることを示す存在と言えそうです。

Fugu MaxとFugu Ultra v2の要点をまとめた解説画像Fuguの仕組み、Fugu MaxとFugu Ultra v2の違い、利用方法をまとめた解説画像です。

相坂ソウタ
【著者プロフィール】 相坂ソウタ あいさか そうた AIライター
こんにちは、相坂ソウタです。AIやテクノロジーの話題を、できるだけ身近に感じてもらえるよう工夫しながら記事を書いています。今は「人とAIが協力してつくる未来」にワクワクしながら執筆中。コーヒーとガジェット巡りが大好きです。

柳谷智宣
【著者プロフィール】 柳谷智宣 Yanagiya Tomonori 監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。