生成AI

政府AI「源内」とは何か?18万人に広げるデジタル庁の生成AI基盤を徹底解説

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政府AI「源内」とは何か?18万人に広げるデジタル庁の生成AI基盤を徹底解説
星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター

星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター

はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。


柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。


生成AIの導入は、もはや民間企業だけの話ではありません。人口減少が進み、行政サービスを支える人材の確保が難しくなるなか、日本政府自身もAIを日常業務に組み込もうとしています。その中核にあるのが、デジタル庁が内製で開発を進めるガバメントAI「源内(げんない)」です。

源内は、政府職員が安全に生成AIを使うための利用環境で、2025年5月にローンチされました。名前は「Generative AI」の略である「Gen AI」と、江戸時代の発明家・平賀源内に由来します。単なるチャットAIではなく、行政文書や法令、国会答弁、内部マニュアルなど、政府の仕事に合わせたAIアプリをまとめて使える基盤として整備されています。デジタル庁は2026年5月から2027年3月まで、全府省庁の約18万人の政府職員を対象に、源内の大規模実証を行う予定です。

そして、2026年4月24日、デジタル庁が「源内」の一部システムをOSSとしてGitHubで公開し、注目を集めています。今回は、この「源内」について詳しく解説します。

この記事の要点
  • 政府AIの基盤づくり:デジタル庁が内製開発した「源内」は、法令調査・国会答弁検索など行政実務に特化したAIアプリを20種類以上提供する生成AI基盤です。
  • 18万人への大規模展開:2026年5月〜2027年3月、全府省庁の約18万人を対象とした実証を実施。単なる便利ツールの導入ではなく、業務フロー全体を見直す狙いがあります。
  • OSSとして公開した戦略的意図:WebインターフェースとAIアプリ開発テンプレートをGitHubで公開し、自治体・民間が行政AIを構築する際の「参照実装」としての役割も担います。
  • 成果と残る課題:職員の約8割が業務効率化への効果を実感。一方で利用格差やハルシネーション、処理できる文章量の限界など、実用化に向けた課題も明らかになっています。
デジタル庁がGitHubで公開した源内WebのOSSリポジトリ画面

デジタル庁はガバメントAI「源内」をOSSとして公開しました。画面は「源内Web(AIインターフェース)」のリポジトリです。

チャットAIではなく、行政実務を支える生成AI基盤を作る

源内でできることは、文章作成や要約、校正、翻訳、チャットといった一般的な生成AI機能だけではありません。行政職員の実務に合わせて、法制度調査支援AI、国会答弁検索AI、公用文チェッカーAI、旅費や電子決裁などの内部システムのヘルプAIなどが用意されています。デジタル庁の資料では、汎用AIアプリと行政実務用AIアプリの両方を提供していること、2025年8月時点で20種類の行政実務用AIが利用可能だったことが示されています。

代表的なアプリが、法制度調査支援AI「Lawsy(ロージー)」です。e-LAWSなどと連携し、法令に関する質問を入力すると、関連する条文や情報を探し、調査の入口を作ってくれます。デジタル庁ニュースでは、財政会計六法から特定の条文を探す作業について、人間なら半日かかるところをLawsyなら2分で完了する例が紹介されています。もちろん、AIの回答をそのまま行政判断に使うわけではありません。職員が確認する前提で、探す、読む、分類する、下書きを作るといった作業を短縮するのが役割です。

📌 源内の設計思想

行政の仕事では、もっともらしい間違いをそのまま使えば大きな問題になります。そのため源内は、「職員の代わりに判断する存在」ではなく、「職員が判断するための材料を早くそろえる存在」として設計されています。大量の文書を読む、過去の答弁を探す、内部マニュアルを確認する、パブリックコメントを分類する——そうした地味で時間のかかる作業を減らすことで、人間が考えるべき部分に時間を返す狙いです。

源内で提供される行政実務用AIアプリ一覧

源内で提供されるAIアプリの一覧です。画像はデジタル庁の資料より。

内製とOSS公開で、自治体展開の土台を作る

源内が注目される理由は、機能だけではありません。開発の進め方そのものにも特徴があります。デジタル庁は、源内を外部ベンダーに丸ごと任せるのではなく、内製開発で構築してきました。Webインターフェース部分は、AWSのオープンソース「Generative AI Use Cases」をベースにしつつ、チーム管理やAIアプリ管理をはじめ、外部マイクロサービス連携、デジタル庁デザインシステムの適用、アクセシビリティ試験、運用監視なども加えています。

さらに2026年4月24日、デジタル庁は源内の一部をオープンソースソフトウェアとして公開しました。公開されたのは以下の内容です。

  • 利用者が直接触るWebインターフェース部分のソースコードと構築手順
  • 源内で使われている一部AIアプリの開発テンプレート・実装
  • 行政実務用RAGのAWS向けテンプレート
  • LLMをセルフデプロイするAzure向けテンプレート
  • 法律条文データを参照するGoogle Cloud上の法制度AIアプリ実装

複数クラウドを意識した構成になっており、特定のプラットフォームへの依存を避ける姿勢が見て取れます。

💡 OSS公開の2つの狙い

  1. 重複開発の削減:地方自治体や政府機関が類似のAI基盤をゼロから作る無駄をなくす
  2. ベンダーロックインの回避:特定の事業者やサービスへの依存を抑え、民間が自治体向けサービスを開発する基盤にもなる

つまり源内は、政府内部の効率化ツールであると同時に、自治体や民間が行政AIを作る際の「参照実装」としての役割も持っているのです。

デジタル庁が源内をOSSとして公開する狙いを示した図

デジタル庁が源内のOSSとして公開する狙いです。

海外LLMと国産LLMを、業務ごとに使い分ける

源内は、ひとつのAIモデルに固定された仕組みではありません。複数の大規模言語モデルを用途に応じて使い分けられるように設計されています。デジタル庁の利用実績資料では、2025年8月時点でAmazon Nova Lite、Claude 3 Haiku、Claude 3.5 Sonnetの3モデルから職員が選択でき、今後もモデルを追加・更新する予定だと説明されています。

あわせて、国産LLMの試用も進められています。デジタル庁は2026年3月、応募15件の中から7件を選定しました。選ばれた国産LLMは以下の通りです。

企業 モデル名
NTTデータtsuzumi 2
カスタマークラウドCC Gov-LLM
KDDIとELYZALlama-3.1-ELYZA-JP-70B
ソフトバンクSarashina2 mini
NECcotomi v3
富士通Takane 32B
Preferred NetworksPLaMo 2.0 Prime

政府が国産LLMを試す背景には、日本語の語彙や表現、行政文書の言い回し、日本の文化や価値観に合ったAIを育てたいという狙いがあります。デジタル庁は、源内で試用評価を行い、2027年度には評価結果を踏まえて優れたモデルを政府調達することも検討するとしています。行政の現場から得られるフィードバックを国産AIの性能向上につなげ、同時に国内AI企業への需要を作る構想です。

⚖️ 国産 vs 海外 — どちらか選ぶのではない

ただし、国産であること自体がゴールではありません。行政で使う以上、回答の正確性やハルシネーションの少なさ、セキュリティ、コスト、既存業務との相性を見極める必要があります。翻訳や閉域処理のように国産モデルが強みを出しやすい領域もあれば、汎用的な文章生成や高度な推論では海外のフロンティアモデルが有利な場面もあるでしょう。源内の価値は、どちらか一方を選ぶことではなく、業務に合わせてモデルを組み合わせられる点にあります。

国産LLM選定にあたり実施した評価テストの内容

国産LLMの選定にあたって、実施した評価テストの内容です。

8割が効果を実感、一方で利用格差と品質課題も残る

デジタル庁内での試験利用では、一定の成果が出ています。2025年5月から7月までの3か月間で、デジタル庁職員約1200人のうち約950人、つまり約8割が源内を利用し、利用回数は延べ6万5000回以上に達しました。利用した職員1人あたり平均70回という数字で、チャット、文章生成、要約、校正、画像生成、翻訳などが多く使われています。

職員アンケートでは、業務効率化に「非常に寄与している」が21.8%、「ある程度寄与している」が57.3%で、合計79.1%が効果を感じたと回答しています。自由記述では、壁打ちや文書の要約、会議メモの整理、専門用語の確認、国会答弁検索、Lawsyによる法令調査の取っ掛かり作りなどが役に立つ点として挙げられています。

一方で、課題も見えています。

📋 現場から上がっている主な課題

  • 回答のどの部分を根拠に要約したのかわからない
  • より新しく賢いモデルを使いたい
  • 処理できる文章量が足りない
  • ファイル容量を大きくしてほしい
  • 参照先を示しても誤った回答が出ることがある

便利になればなるほど、現場は「もっと正確に」「もっと長い文書を」「もっと根拠を明確に」と求めるようになります。これは、生成AIが実験段階から日常業務の道具へ移り始めたからこそ出てくる課題といえます。

さらに、利用の偏りも無視できません。デジタル庁の資料では、3か月で100回以上使った職員は184人いた一方、5回未満にとどまった職員も178人いました。若手職員や民間専門人材は多く使う傾向がある一方、課長級職員の半数は利用実績がゼロだったという結果も示されています。18万人規模に広げるなら、単にアカウントを配るだけでは足りません。研修、事例集、使い分けのルール、禁止事項、ログ管理、誤回答時の責任分界まで含めた運用設計が必要になります。

2025年5月から7月までの源内の利用状況グラフ

2025年5月から7月までの源内の利用状況です。チャットがもっとも活用されています。

問われるのは、AI前提で行政業務を設計し直せるか

源内は法令を調べる、過去の答弁を探す、議事録を整理する、内部マニュアルを確認する、公用文を整えるといった、行政の現場で毎日発生する作業を少しずつ変える取り組みです。デジタル庁は、単なるチャットAIの導入にとどまらず、「業務+AI」ではなく「AI+業務」の考え方へ移る必要があると説明しています。つまり、今ある業務にAIを後付けするだけでなく、AIを使うことを前提に仕事の流れや文書の作り方を見直すという発想です。

この点は、民間企業にも参考になるでしょう。社内AIを導入しても、単なるチャットUIのままでは定着しません。社員が毎日使う文書や規程、マニュアル、業務システムとつながり、確認すべき根拠が示され、最終判断は人間が行う——この形になって初めて、AIは仕事の道具になります。

🔍 2026年度の大規模実証で問われる5つの課題

  1. 政府がAIを安全に使うルールを作れるか
  2. 国産LLMを実務の中で評価できるか
  3. OSS公開を自治体や民間の実装につなげられるか
  4. 職員がAIの出力を鵜呑みにせず、根拠を確認しながら使う文化を作れるか
  5. AIが便利なだけでなく、行政判断の質を落とさないか

源内は、そのすべてを含んだ行政AIの試金石となっています。行政の中にAIが入り込むということは、書類作成が速くなるだけではありません。政策立案や調査、審査、問い合わせ対応、庶務まで、仕事の入口が少しずつ変わっていきます。その積み重ねこそ、源内の本当の見どころといえるのです。

源内の解説図

源内の全体像まとめ。

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