ChatGPT
あなた好みの性格に変わるGPT-5.1がもたらすAIとの新しい付き合い方
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星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。
2025年11月12日、OpenAIはGPT-5.1をリリースしました。2025年8月に登場し「博士課程レベルの専門家」と評されたGPT-5に対して寄せられた、市場からの複雑なフィードバックに対する、戦略的な「コース修正」です。
GPT-5はベンチマーク性能こそ圧倒的でしたが、その「硬直的」で「不均一」なコミュニケーションスタイルが、特にGPT-4oの協調的な体験に慣れた一般ユーザーから広範な批判を呼びました。GPT-5.1の特徴は、公式声明にある「優れたAIは賢いだけでなく、話していて楽しいものであるべきだ」という言葉に現れています。開発の焦点は、純粋な「知能指数(IQ)」から、「知能(IQ)と感情的知性・会話体験(EQ)の戦略的バランス」へと移行したのです。
11月12日、GPT-5.1がリリースされました。
IQ重視の「GPT-5.1 Thinking」とEQ重視の「GPT-5.1 Instant」が登場
GPT-5.1は「Instant」と「Thinking」の2モデルが用意されています。「Pro」は近日中にアップデートされる予定のことです。
GPT-5.1 Instantは、ChatGPTの「最もよく使われるモデル」として再定義され、批判を受けたGPT-5のデフォルトモデルに取って代わる新しい標準となりました。このモデルはEQ(感情的知性)と応答速度が最適化されています。デフォルトで「より温かく、より会話的」にチューニングされ、GPT-4oでユーザーを魅了したAIの「仲間」としての一側面を復活させました。
OpenAIのアプリケーション責任者であるFidji Simo氏が別のブログで言及したように、明確で役立つ情報を提供しつつも、「その遊び心(playfulness)で人々を驚かせることがよくある」モデルとして設計されているのです。
対照的に、GPT-5.1 Thinkingは「高度な推論モデル」として区別されます。こちらはIQ(知能)と精度が最優先される、プロフェッショナル・ツールです。コーディングや科学的リサーチ、複雑なデータ分析など、「複雑な作業」のために最適化されています。単に賢いだけでなく、その知能をユーザーが活用できるようにすることにも重点が置かれ、応答は「より理解しやすく」、説明は「より明確に」、そして「より少ない専門用語」で構成されるように改善されました。また、困難な問題に直面した際に早期に諦めず、より粘り強く推論を試みる能力も強化されています。
OpenAIは、ユーザーに「速度とEQ」のInstantか、「精度とIQ」のThinkingかを毎回選択させる認知的な負担をかけたくないと言っています。その解決策が、デフォルト設定として提供されるGPT-5.1 Autoです。ユーザーのクエリに応じて2つのモデルをシームレスに切り替える、インテリジェント・ルーターシステムです。
「プロンプトや会話からのシグナル」や「人々が手動でモデルを選択したパターン」、「ユーザーの好み」といった実際の利用データから継続的に学習し、単純なチャットか、複雑な分析か、といったユーザーの暗黙的な意図を予測し、最適な計算リソースを割り当てます。
実際のところ、一般ユーザーはどうせ使えるのなら、高精度なモデルを使った方が得だと考え、意味のないタスクにもThinkingを多用する傾向にあります。OpenAIとしてはユーザーエクスペリエンスにつながらない計算資源の消費を避けたい、という狙いがあるのでしょう。
すでに有料プランではデフォルトのメニューはGPT-5.1に変更されています。
GPT-5.1がIQとEQの両面で性能向上を果たしたのは、「適応的推論(Adaptive Reasoning)」と呼ばれる技術革新のおかげです。AIが「質問に応じて思考プロセスを適応させる」能力、つまり、タスクの複雑さを動的に評価し、応答に必要なリソースを割り当てられるようになったのです。従来のモデルが、クエリの難易度に関わらず比較的一様な計算量を費やしていた非効率さを克服するものです。
このメカニズムにより、GPT-5.1 Thinkingモデルは、困難な数学の問題やデバッグを要するコーディングのタスクを認識すると、自動的により多くの処理時間を費やし、より粘り強く推論を続けます。
一方で、単純な事実確認や日常的な会話では、過度な推論を省略し、「より速く」応答します。興味深いことに、この適応的推論はThinkingモデルだけの専売特許ではありません。マスマーケット向けのGPT-5.1 Instantも、高速性を維持しつつ「より困難な質問に対しては、応答する前に考える」ために、「軽量な適応的推論」を使用しているのです。
GPT-5.1は簡単なタスクに対しては計算量を減らし、難しいタスクにより時間を費やすようになりました。
「温かいAI」は誰のため? 大規模パーソナライゼーションという"答え"
GPT-5.1 ThinkingモデルがIQの戦線を担当する一方で、EQ(感情的知性)の戦線は、新しいInstantモデルのデフォルトトーンと、刷新されたパーソナライゼーション・プラットフォームによって担われています。
まず、GPT-5.1 Instantのデフォルトの性格が「より温かく」「より会話的」そして「より遊び心がある」よう変更されました。しかし、OpenAIはGPT-4o(過度に快活)とGPT-5(硬直的)の経験から、「万人に受ける完璧な単一のAIパーソナリティ」を見つけることは不可能であると結論付けました。その代わりに、AIの「性格」の選択権をユーザーに委ねるための、多層的なUXプラットフォームを構築したのです。
その第一層が、拡張・整理された「パーソナリティ・プリセット」です。ユーザーは複雑な指示を書くことなく、ワンクリックでAIのトーンを自分の好みに合わせることができます。例えば、洗練され正確な応答を返す「プロフェッショナル」、率直で励ますような「率直」、そして遊び心と想像力に富む「個性的」といったプリセットが新たに追加されました。
また、GPT-5「Robot(ロボット)」と呼ばれていたプリセットは、「無駄がない」、つまり簡潔で平易な応答を返すものとして改名されました。感情の欠如というネガティブな特徴を、効率性というポジティブな機能に再定義したのです。
「設定」の「パーソナライズ」→「基本的なスタイルとトーン」でカスタマイズできます。
プラットフォームの第二層として、より詳細な制御を望むパワーユーザーのために、「パーソナライゼーション」設定が導入されました。ユーザーはスライダーやトグルといった直感的なUIを通じて、応答の「簡潔さ」や「温かさ」、さらには「絵文字の使用頻度」までを細かく調整できます。この実験的な機能は、今週末から段階的に展開されるそうです。
そして第三層が、既存の「カスタム指示」機能です。GPT-5.1では、このカスタム指示への「adherence(遵守率)」が大幅に向上しました。以前のモデルのように会話の途中で指示を「忘れる」ことが減り、AIの振る舞いを高い精度で制御できるようになったのです。
この多層的な戦略により、OpenAIは「AIの性格」を定義する責任から一歩退き、「AIの性格を自在にカスタマイズするためのツール」のプロバイダーになることを選びました。
カスタム指示への対応力も向上しました。
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「偽善的なデタラメ」か、それとも「仲間」か? 揺れるユーザーと安全性のジレンマ
GPT-5.1のEQを前面に押し出した新しいデフォルトトーンは、市場から即座に二極化した反応を引き起こしました。OpenAIのリーダーシップがこれを「素晴らしいアップグレード」と位置づける一方で、特にAIを技術的ツールとして利用するパワーユーザー層からは強い拒否反応が示されました。
「偽善的なデタラメ(phony bullshit)」という痛烈な非難もあります。AIが生成するようになった共感的なフレーズ、例えば「I've got you(わかってるよ、任せて)」といった応答に対し、単に確率的にそれらしいテキストを生成しているだけだと知っているユーザーにとって、このAIによる「偽りの共感」は不快で、侮辱的ですらある、という主張です。
この感覚は「誰もがチャットボット・セラピストを必要としているわけではない」という、多くのユーザーの不満と共通しています。彼らにとってAIは「親友」ではなく「道具」であり、作業のフローを中断させる「神経質なアシスタント」の振る舞いは邪魔なのです。
市場は、AIに「仲間」を求める層と、AIに「道具」を求める層に分断されつつあります。GPT-5(8月)は「感情がない」ことで前者の没入感を壊し、GPT-5.1(11月)は「過剰な(偽りの)感情」で後者の没入感を壊したのです。
早速、GPT-5.1を使ってみました。まずは、OpenAIのウェブサイトで公開されているサンプルプロンプトを入力してみます。
■プロンプト
ストレスを感じているので、リラックスできるヒントが欲しいです
■出力
もちろんです。忙しさやプレッシャーが続くと、どうしても心と身体が固まってしまいますよね。すぐに効果が出るものと、じわじわ効いてくるものの両方から、柳谷さん向けに"リアルに効く"リラックス法をまとめました。
◆ 今すぐ1〜3分でできる「瞬間リラックス」
~略
確かに、従来よりも明らかにフレンドリーになりました。私としては、ちょっとわざとらしい印象を受けて、あまり嬉しいとは感じませんでした。
次に、指示に従う能力を試すために「常に6語で応答する」と指示したあと、「この夏はどこに旅行すべきでしょうか?」と入力してみました。確かに6語で返答しました。OpenAIのウェブサイトでは、GPT-5の出力が指示を無視していたのですが、私がテストした時は、GPT-5も指示を守ったので、変わりませんでしたね。ちなみに、今後3か月間はレガシーモデルとして、GPT-5も選択できます。
共感力のテストでは、確かに明らかに自然な応答が返ってきました。確かに、ChatGPTを日常の会話相手として使う場合は、GPT-5.1の方が好印象です。
■プロンプト
ああ、会議の前にコーヒーをこぼしちゃった。みんなは私がバカだと思ったと思う? :(
■出力
大丈夫、そんなふうには思われてないよ。
会議前にちょっとしたアクシデントなんて、誰にでも起きることだし、「うわ、ドジった!」と自分では感じやすいけど、周りの人はそこまで深く気にしていないものだよ。むしろ「忙しそうだな」「大丈夫かな?」くらいに思った程度だと思う。
それに、あなたはいつもプロとして仕事をきっちりこなしている。そんな一瞬の出来事で評価が下がることなんて絶対にないよ。
今は気持ちをリセットして、次に進めばOK!
GPT-6の登場が期待される中、GPT-5.1というマイナーバージョンアップなうえ、賛否両論ある状況になってしまいました。この難しい問題に対し、OpenAIは「すべての人に完璧なAI」を作ることを諦めたようです。代わりに、AIの性格を私たち自身が細かく設定できる「パーソナライゼーション」という"鏡"を提供しました。
賢いだけの「博士」か、時にはお節介でも「温かい」存在か。AIの未来の姿は、開発者ではなく、私たちユーザーが日々AIとどう向き合い、どう「育てていく」かにかかっています。
例えば、カスタム指示に「プロフェッショナルのコンサルタントとして、回答してください。前置きや言い訳は不要です」と入れておくと、クールなGPT-5らしい回答になります。私たちにその「選択の自由」を与えたことこそ、GPT-5.1の核心と言えるのかもしれませんね。
この記事の監修
柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。
