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AIがブラウザを進化させる「第三次ブラウザ戦争」勃発! あなたのネット体験はどう変わるのか?

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AIがブラウザを進化させる「第三次ブラウザ戦争」勃発! あなたのネット体験はどう変わるのか?
アイサカ創太(AIsaka Souta)AIライター

アイサカ創太(AIsaka Souta)AIライター

こんにちは、相坂ソウタです。AIやテクノロジーの話題を、できるだけ身近に感じてもらえるよう工夫しながら記事を書いています。今は「人とAIが協力してつくる未来」にワクワクしながら執筆中。コーヒーとガジェット巡りが大好きです。

私たちが毎日使っているウェブブラウザは、情報を検索したり、動画を見たり、ショッピングをしたり、インターネットの入り口となっています。これまで、ユーザーが能動的に情報を「引き出す(pull)」ための道具でしたが、今、その常識が根本から覆されようとしています。

Microsoft、Google、そしてOpenAIやPerplexityといったビッグテックが、AIを搭載した新しいブラウザを次々と発表しています。それは、私たちが指示するだけでタスクをこなし、必要な情報を先回りして「押し出す(push)」、まるで有能な秘書のような存在となっているのです。そう、ブラウザがAIエージェントへと進化する大きな変化が起きているのです。この動きこそが、ウェブの未来を賭けた「第三次ブラウザ戦争」の幕開けなのです。

まず注目したいのが、現在のブラウザ市場を牽引する二大巨人、MicrosoftとGoogleの動きです。彼らは、自らが持つ巨大なプラットフォームを最大限に活用し、AIを組み込む戦略をとっています。Microsoftは、OSであるWindowsや、ビジネスソフトのMicrosoft 365との連携を強みに、Edgeブラウザ内のAI「Copilot」を、仕事に欠かせない生産性パートナーとして位置づけています。

例えば、複数のタブで開いたレシピを比較して調理スケジュールを自動で作成したり、受信トレイから直接ニュースレターの購読を解除するような、複数ステップの作業を代行する「Actions」機能は、まさにブラウザが「実行者」に変わる瞬間ですね。

さらに、過去のブラウジング履歴をタスクごとに自動でまとめる「Journeys」機能は、まるでブラウザが私たちのプロジェクトを記憶してくれるかのようです。もちろん、閲覧履歴へのアクセスなどは厳格なオプトイン(ユーザーの任意による許可)方式を採用し、「信頼」の構築にも力を入れています。

一方、Googleは、ChromeブラウザとAndroid OSという圧倒的なシェアを背景に、AI「Gemini」を統合してきました。彼らの主な目的は、AIネイティブな新しいサービスにユーザーが流出するのを防ぎ、自社の検索および広告という中核ビジネスを守ることにあるでしょう。

Geminiは、記事の要約や複雑なトピックの説明はもちろん、Googleドキュメントへのアクセス、カレンダーへの予定作成、Gmailの要約など、既存のGoogleサービスとシームレスに連携します。これにより、ブラウザ自体が統一された生産性ハブとして機能し始めるのです。

アドレスバー(オムニボックス)も進化し、複雑な質問に答えたり、次の行動を提案したりと、検索と対話の境界線が曖昧になっていきます。Googleもまた、将来的に食料品の注文のような複雑なタスクを自動化する、より高度なエージェント機能の開発を進めていることを隠していません。両社とも、その巨大な基盤にAIを「後付け」しているため、ユーザー体験の根本的な変革には慎重にならざるを得ない側面も見え隠れします。


マイクロソフトのCopilot Fall Releaseの発表画面

10月23日、マイクロソフトは大型アップデート「Copilot Fall Release」を発表しました。


AIネイティブが仕掛ける「革命」OpenAIとPerplexityの挑戦

巨人が既存の城を守りながら改築を進める一方で、まったく新しい設計思想で戦いを挑む新興勢力がいます。それが、ChatGPTを開発するOpenAIと、検索特化型生成AIとして名を馳せたPerplexityです。彼らは、既存のブラウザを拡張するのではなく、AIによる「対話」そのものを中心に据えてブラウザをゼロから再定義しようとしています。

OpenAIが突如リリースした「Atlas」は、ChatGPTの絶大なブランド力を武器に、ブラウザ体験をクリック操作から対話へと移行させようという野心的な試みです。どのウェブページ上でもChatGPTのサイドバーを呼び出せる「Chat」、過去の文脈を記憶する「Memory」、そしてフォーム入力やオンラインショッピングなどを自律的に行う「Agentモード」。これらは、ユーザーを「操作する人」から「委任する人」へと変える強力な機能です。興味深いのは、この革命的なブラウザが、皮肉にもGoogleが主導するオープンソースのChromiumを基盤にしている点。技術基盤がいかにコモディティ化(汎用化)しているかが分かります。

もう一方の挑戦者、Perplexityは「アンサーエンジン」としての強みを、本格的な「エージェント型ブラウザ」へと昇華させようとしています。Perplexityの「Comet」ブラウザは、ユーザーが「声に出して考える」ことを助ける設計が特徴です。タブの整理やメールの下書きはもちろん、「高品質で快適、かつ安価なオフィスチェアを購入する」といった曖昧な指示から、ショッピングタスクを実行することまで目指しています。情報を見つけるだけでなく、その情報に基づいて実際に行動を起こすのです。その機能の核には、Perplexityが従来から得意としてきた、引用元を明記した「正確な回答」へのこだわりが見えます。

ただし、こうした強力なエージェント機能にはリスクも伴います。ウェブページに隠された悪意ある指示でAIが騙される「間接プロンプトインジェクション」という脆弱性が指摘されたこともあり、セキュリティ対策は彼らにとって最大の課題の一つと言えるでしょう。


AIブラウザのチャット機能でタスクを指示している画面

AIブラウザはチャットで様々なタスクを指示できます。画面はAtlasです。


スピード競争から「信頼」の奪い合いへ。今回の戦争が過去と根本的に違うワケ

「ブラウザ戦争」と聞くと、1990年代のNetscapeとInternet Explorer(IE)の戦いを思い出す方もいるかもしれません。あれは「第一次ブラウザ戦争」と呼ばれ、いかに多くのPCに自社ブラウザをインストールさせるかという「配布力」の戦いでした。結果は、Windows OSにIEを同梱したMicrosoftの圧勝でしたね。

次に、2000年代後半から始まったのが、Firefox、そしてGoogle Chromeが登場した「第二次ブラウザ戦争」です。この戦いは、表示速度や使いやすさといった「ユーザー体験」と、検索バーを通じた「データ」の支配を巡るものでした。より速く、より快適なChromeが、Googleの強力なエコシステムを背景に勝利を収め、現在の地位を築きました。

では、今回の「第三次ブラウザ戦争」は、何が違うのでしょうか。決定的な違いは、競争の軸が「知性」と「信頼」に移ったことです。もはや、ページの読み込み速度や規格への準拠性で争う時代ではありません。問われているのは、ブラウザがどれだけ賢く、ユーザーのために行動できるか、です。

これまでのブラウザは、私たちが情報を引っぱり出す道具でした。しかしAIエージェントが主役となるこれからは、私たちが目的を「委任」し、ブラウザが結果を「押し出す」モデルへと変わっていきます。もはや私たちは「ブラウジングする」のではなく、AIに「指示する」ようになるのかもしれません。

そうなると、ユーザーがAIに重要なタスク(例えば、フライトの予約や商品の購入)を任せても大丈夫だと感じる瞬間、つまり「信頼の瞬間」を獲得することが、勝利の鍵となります。トラフィックではなく、信頼こそが新しい時代の最も価値ある資源なのです。戦場も、検索バーからブラウザの「内部」へと移りました。開いているタブの内容を分析したり、表示されている情報に基づいて行動したりと、価値はページが読み込まれた後に生み出されています。

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私たちのネット生活はどうなる?AIブラウザがもたらす光と影

この新しいブラウザ戦争は、私たちのデジタルライフにどのような影響を与えるのでしょうか。まず、ブラウザは単なるアプリを超え、インターネットを利用するためのOSのような存在感を増していくでしょう。AIエージェントが最適な答えを直接提示するようになると、Googleの中核である検索・広告ビジネスは大きな影響を受けます。OpenAIやPerplexityがブラウザ開発に乗り出したのも、ユーザーの「検索」から「行動」までの全プロセスを掌握するためです。

この変化は、ウェブサイト運営者やコンテンツ制作者にとっても深刻な問題を引き起こす可能性があります。AIが情報を要約して提示することで、ユーザーが元のウェブサイトを訪れる(クリックする)必要性が劇的に減るからです。これはゼロクリック問題と呼ばれ、良質なコンテンツを提供してきたメディアやクリエイターの収益源を脅かしかねません。

一方で、AIエージェントが私たちの生活を便利にするためには、閲覧履歴やメール、カレンダーといった膨大な個人データへのアクセスが必要になります。これは、プライバシー保護の観点から大きな課題を生み出します。どのAIエージェントが成功するかは、ユーザーが安心してデータを預けられるかどうかにかかっています。

また、AIエージェントが「旅行を予約して」という指示に対し、特定の航空会社やホテルを選ぶようになると、ブラウザ提供者が自社や提携サービスを不当に優遇するのではないか、という新しい独占禁止法上の懸念も出てきます。コンテンツ制作者との関係も変わるかもしれません。AIがコンテンツを利用する対価として、制作者に「データ通行料」のようなものを支払う、新しいビジネスモデルが生まれる可能性もあります。

あなたは、どの「秘書」に未来を委ねますか?

「第三次ブラウザ戦争」は、単なる機能追加の競争ではありません。私たちがデジタル情報やサービスとどう向き合うか、その根本的なインターフェースを巡る戦いです。これからのウェブは、私たちが自ら情報を探し回る場所から、有能なAIエージェントにタスクを委任する場所へと姿を変えていくのかもしれません。

この戦いの勝者は、単に最も賢いAIモデルを開発した企業でも、最大のユーザー基盤を持つ企業でもないでしょう。セキュリティとプライバシーという難題をクリアし、何百万人ものユーザーから「自分のデジタルライフの鍵を預けてもいい」と心の底から信頼される基盤を築き上げたプラットフォームこそが、このインテリジェントウェブ時代の真の勝者となるはずです。あなたの「信頼」を勝ち取るのは、どの企業のAIエージェントになるのでしょうか。未来のネット体験を選ぶ戦いは、もう始まっています。


この記事の監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。

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