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10年以内の「超知能」と1.4兆ドルのインフラ計画、OpenAI サム・アルトマン氏らが明かす新ビジョン

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10年以内の「超知能」と1.4兆ドルのインフラ計画、OpenAI サム・アルトマン氏らが明かす新ビジョン
星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター

星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター

はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。

OpenAIのサム・アルトマン氏とチーフサイエンティストのヤコブ・パチョッキ氏、共同創業者のヴォイチェフ・ザレンバ氏が、同社の将来に関する重要なアップデートを発表しました。

OpenAIはAGI(汎用人工知能)に対するアプローチの変化、研究開発の具体的なタイムライン、そして社会実装に向けた新たな組織構造を明らかにしています。かつてOpenAIはAGIを「空に浮かぶ神託のようなもの」と捉えていた時期もありましたが、その見方はよりはっきりとしてきました。彼らが目指すのは、人々が未来を創造するための「ツール」を提供すること。AIによって人々を可能な限り力づけ、人類の歴史がそうであったように、より新しく優れたツールによって社会全体が前進していくプロセスを信頼したい、というビジョンです。


サム・アルトマン氏がOpenAIの構造改革について語る様子

サム・アルトマン氏らが、OpenAIの構造改革とロードマップについて語りました。

AIによる科学的発見の加速と「超知能」への現実的視点

OpenAIが目指すミッションの中核には、AGIが全人類に利益をもたらすという不変の原則が存在します。アルトマン氏が提示した経済的側面に加え、特に強調されたのがAIが「科学」に与えるインパクトです。AIが自律的に、あるいは人々を支援する形で新たな科学的発見を加速させることこそが、社会の長期的な生活の質を向上させる上で最も重要な要素の一つだと考えているのです。

チーフサイエンティストのヤコブ・パチョッキ氏によると、OpenAIはディープラーニングという技術を理解することに焦点を当てた研究所であり、その技術をスケールアップさせた先にあるものとしてAGIを議論してきました。しかし、パチョッキ氏は、AGIという言葉だけでは、これから起こる変化の規模を捉えきれないと言います。

「私たちは、ディープラーニングシステムが10年以内に「超知能」、つまり多くの重要な軸において私たち全員よりも賢いシステムに到達する可能性があると信じています」(パチョッキ氏)

これは非常に重大な予測であり、社会が取り組むべき多くの示唆を含んでいます。だからこそ、OpenAIの研究プログラム全体が、科学的発見の加速と新技術の開発という可能性を中心に組織されているのです。

2026年9月に「AIリサーチインターン」、2028年3月に「AIリサーチャー」の実現へ

OpenAIは、超知能へと至る進捗を測る一つの指標として、モデルがタスクを遂行するのにかかる「時間」に注目しています。かつては数秒、数分だったAIのタスク処理能力は、現行世代のモデルで約5時間レベル、つまり人間が5時間かけて行うような競技プログラミングなどのタスクで最高レベルの人間に匹敵するまでになっています。

パチョッキ氏は、この進捗は今後も急速に続くと予測します。特に、アルゴリズムの革新と、モデルが「考える」時間、すなわち「テストタイムコンピュート」をスケールさせる余地が、まだ桁違いに残されている点を強調しました。

科学的なブレークスルーのような真に重要な問題に対しては、データセンター全体を使うほどの計算時間を費やすことも許容されるべきだ、と言うのです。そしてOpenAIは、こうした進捗を見据え、通常は公開しない内部の研究目標とタイムラインを、あえて透明性を高めるために共有するという異例のステップに踏み切りました。

「これらの特定の日付は、もちろん我々がかなり間違っている可能性もありますが、これが我々の現在の考え方であり、計画と組織化の方法です」(パチョッキ氏)

目標として、まず2026年9月までに、研究者を意味のある形で加速させることができる「AIリサーチインターン」レベルのシステムを実現すること。さらに、2028年3月までには、より大きな研究プロジェクトを自律的に遂行可能な、完全に自動化された「AIリサーチャー」を実現することを目指すというのです。


OpenAIのAIリサーチインターン実現計画のタイムライン

2026年、「AIリサーチインターン」が登場する予定です。

超知能を制御するセーフティ技術「Chain of Thought Faithfulness」とは

2028年にAIリサーチャーが誕生し、さらにその先にある超知能システムが見えてきたいま、安全性とアライメント(調整)の問題はこれまで以上に重要性を増しています。パチョッキ氏によれば、セーフティは多面的な問題であり、OpenAIはそれを5つのレイヤーで構造化して考えています。

モデルの最も内部にある「価値のアライメント」から、「目標のアライメント」、「信頼性」、「敵対的堅牢性」、そして最も外部にある「システミックセーフティ」に至るまで、多層的な研究投資が行われています。

特に重要なのが、核となる「価値のアライメント」です。これは、AIが根本的に何を気にかけるのか、人類を愛しているか、不明確で矛盾した目的を与えられたときにどう振る舞うか、といった問題です。システムが賢くなり、人間の能力を超える問題に取り組むようになると、完全な仕様を定義することは困難になります。だからこそ、より深いレベルでのアライメントが必要になるわけです。

この難問に取り組む上で、パチョッキ氏は「Chain of Thought Faithfulness(思考連鎖の忠実性)」という新技術を紹介しました。モデルの内部的な推論プロセスの一部を、あえて訓練時の監視から外し、自由な状態に保つというものです。モデルに「良い考え」を持つよう指導するのではなく、モデルが「実際に何を考えているか」に忠実であり続ける余地を残すことによって、モデルの内部プロセスを理解し、その傾向を監視する能力を維持できるとOpenAIは考えています。

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1.4兆ドルのインフラ投資と「AIレジリエンス」という新構想

こうした野心的な研究を支えるため、OpenAIは従来のChatGPTのような単体のサービスから、誰もがその上で価値を構築できる「プラットフォーム」へと進化しようとしています。その実現には「ユーザーの自由」と「プライバシー」という2つの原則が不可欠です。一方で、このプラットフォームと研究を支えるインフラには、想像を絶する規模の投資が行われています。

アルトマン氏は、これまでにコミットしたインフラ構築の総額が、今後数年間にわたる財政的義務として「1.4兆ドル(約200兆円以上)を少し超える」レベルであり、合計30ギガワット超の規模に達することを明らかにしました。これにはAMDやGoogle、Microsoft、Nvidia、Oracle、SoftBankといった多くのパートナーとの連携が含まれます。

さらに野心的な構想として、将来的には週に1ギガワットの計算能力を生み出す「インフラ工場」の建設も視野に入れているそうです。こうした巨大な取り組みと並行して、OpenAIは組織構造も刷新しました。新たに設立された非営利団体「OpenAI Foundation」が、公益法人である「OpenAI Group」を統治するという、よりシンプルな形です。

「全人類への利益」を実現する新体制へ

新しい非営利団体「OpenAI Foundation」は、そのリソースをAGIの利益を最大化するために活用します。その最初の主要な取り組みとして、250億ドル規模のコミットメントが発表されました。それは、AIを活用して「疾病の治療法を発見する」ことを支援するというものです。

そしてもう一つの重要な柱が、OpenAIが掲げる「AIレジリエンス」という概念です。共同創業者のヴォイチェフ・ザレンバ氏も登壇し、このビジョンについて語りました。これは従来のAIセーフティよりも広い考え方で、例えば、AIによるバイオテロのリスク、メンタルヘルスへの影響、雇用の急速な変化などのAIがもたらすリスクや社会的な混乱に対して、社会全体で対応できるエコシステムを構築することを目指します。

かつてインターネットがサイバーセキュリティという産業を生み出したように、AI時代にも「AIレジリエンス」という新たなレイヤーが必要になると考えているのです。アルトマン氏は、2026年にはAIが小さな科学的発見を始め、2028年には中規模、あるいは大規模な発見をし、2030年以降は未知の領域に入っていくだろうと未来を展望しました。OpenAIが示したのは、技術的なマイルストーンだけでなく、その技術を人類全体の利益に結びつけるための具体的な設計図でした。


この記事の監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。

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