AIニュース

OpenAIが6年ぶりに解き放った「gpt-oss」、その実力と真の狙いは?

-

-

  • facebook
  • line
  • twitter
OpenAIが6年ぶりに解き放った「gpt-oss」、その実力と真の狙いは?
アイサカ創太(AIsaka Souta)AIライター

アイサカ創太(AIsaka Souta)AIライター

こんにちは、相坂ソウタです。AIやテクノロジーの話題を、できるだけ身近に感じてもらえるよう工夫しながら記事を書いています。今は「人とAIが協力してつくる未来」にワクワクしながら執筆中。コーヒーとガジェット巡りが大好きです。

8月5日、OpenAIはオープンウェイト言語モデルの「gpt-oss-120b」と「gpt-oss-20b」をリリースしました。OpenAIがモデルの中核ともいえる「重み(ウェイト)」を公開するのは、2019年のGPT-2以来、実に6年ぶりのこと。長らくクローズドな戦略を貫いてきましたが、この方針転換は、世界中の開発者や企業に大きな驚きを与えました。今回は、OpenAIの戦略と公開された「gpt-oss」が持つ実力について解説します。

オープンウェイトリーズニングモデルgpt-oss-120bとgpt-oss-20bがリリース

オープンウェイトリーズニングモデルgpt-oss-120bとgpt-oss-20bがリリースされました。

なぜ今、オープン化へ? 6年間の沈黙を破ったOpenAIの戦略的背景

OpenAIがGPT-2以来、実に6年もの歳月を経てオープンモデルの公開に踏み切った背景には、複雑に絡み合うAI業界の競争環境と、同社自身に向けられる期待の変化がありました。社名に「オープン(Open)」を掲げながらも、GPT-3やGPT-4といった近年の主力モデルはAPI経由でのみ提供する閉鎖的な姿勢を貫いてきました。この姿勢から、一部のコミュニティからは皮肉を込めて「クローズドAI(ClosedAI)」と揶揄されることさえあったのです。今回の発表は、そうした声に応える側面もあります。

これまでオープンモデルの分野では、Meta社が公開した「Llama(ラマ)」シリーズが定番となっていました。しかし、近年では中国のDeepSeek社「R1」やAlibaba(アリババ)グループの「Qwen(通義千問)」といった中国勢の高性能なオープンモデルが台頭し、その存在感を増しています。これらのオープンモデルは、驚くほど低いコストでOpenAIのクローズドモデルに匹敵する性能を叩き出すこともあり、OpenAIにとって無視できない脅威となっていました。市場シェアのデータを見ても、同社のエンタープライズ市場におけるシェアは2024年から2025年にかけて50%から25%へと半減しており、危機感が募っていたと指摘されています。

さらに、米国政府の政策も公開を後押しした要因と考えられます。トランプ政権はオープンなAI開発を推進する姿勢を明確にしており、AIをめぐる米中間の技術覇権争いを念頭に、米国製の強力なオープンモデルの登場を支援していました。OpenAI自身も政府への提出文書で、米国のAI技術におけるリーダーシップの重要性を強調しており、今回の「gpt-oss」リリースは、市場競争力の回復と政策的な支持獲得という、二つの大きな戦略的な狙いがあると分析できます。

gpt-oss-120bはo4-miniを上回るベンチマークスコア

「gpt-oss-120b」はオープンモデルながら「o4-mini」よりも上回るベンチマークスコアを出しています。

常識を覆す性能と効率性、「gpt-oss」を支えるテクノロジー

「gpt-oss」シリーズが市場にインパクトを与えたのは、オープン化したことだけでなく、その高い性能によるところが大きいでしょう。パラメータ数が約1170億の「gpt-oss-120b」と、約210億の「gpt-oss-20b」という2つのモデルが公開され、それぞれ異なる用途を想定しています。

技術的には「Mixture-of-Experts(MoE)」と呼ばれるアーキテクチャを採用しているのが特徴です。モデル内部に多数の専門家(エキスパート)と名付けられた小さなサブモデルを配置し、入力された情報に応じて最適な専門家だけを呼び出して処理させる仕組みです。

例えば、巨大な「gpt-oss-120b」モデルでは、内部に128人もの専門家がいますが、実際に一度の処理で稼働するのは、その中から選ばれたわずか4人分、約51億パラメータに過ぎません。この仕組みによって、モデル全体の巨大な知識量を維持しながら、計算コストを大きく削減することができます。従来は巨大なデータセンターでしか動かせなかった1000億パラメータ級のモデルが、単一の高性能GPUでも動作可能になったのです。

OpenAIの内部評価によれば、「gpt-oss-120b」は同社の高性能クローズドモデル「o4-mini」に匹敵するスコアを叩き出しており、特にプログラミングや数学といった論理的推論が求められる分野で本領を発揮するそうです。

一度に処理できる情報の長さを示すコンテキスト長は12万8000トークンで、これは一般的な書籍にして約300ページ分に相当します。長い文脈を扱える能力は、複雑な文書の読解や、複数ステップにまたがるタスクの自動化において大きな効果を発揮するでしょう。さらに、外部のツールを呼び出して情報を検索したり、Pythonコードを実行したりする「エージェント機能」も標準で搭載。モデルがどのように結論に至ったかの思考プロセスをすべて出力させることも可能で、開発者はAIの考え方を覗き見ながら、より高度なアプリケーションを構築できるようになります。

gpt-ossはマルチリンガルに対応

「gpt-oss」はマルチリンガルに対応。他の言語の平均スコアよりも日本語の方がやや高く、問題なく利用できます。

開発者と企業に革命を。自前AIが拓くビジネス活用の新時代

「gpt-oss」の最大のメリットは、何といっても自社の環境で生成AIを直接運用できるようになることです。これまでは、ChatGPTのような高度なAIを利用する場合、機密情報を含むデータをOpenAIのサーバーに送信する必要があり、セキュリティやプライバシーの観点から導入を躊躇する企業も少なくありませんでした。しかし、「gpt-oss」はモデルそのものを手元で動作させることができるため、外部にデータを送信することなく、閉じた自社のネットワーク内で安全にAIを活用することができます。金融機関や医療機関、政府機関など、特に厳格なデータ管理が求められる分野での活用が期待されます。

この動きに、主要なテクノロジープラットフォームも迅速に呼応しています。OpenAIの主要パートナーであるMicrosoftは、自社のクラウドサービス「Azure」で「gpt-oss」を簡単に利用できる環境を発表しました。数クリックでモデルのセットアップが完了し、自社データを用いたカスタマイズ(ファインチューニング)までシームレスに行えます。

驚くべきことに、小型の「gpt-oss-20b」は一般的なPC上でも動作するよう最適化が進められており、特別なサーバーがなくても手元のマシンで高度なAIを動かすことができます。

AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)やDatabricksといった他の主要クラウドプラットフォームも次々とサポートを表明し、Hugging Faceのような開発者コミュニティでは、様々なツールを使って「gpt-oss」を動かすための情報共有が活発に行われています。

モデルの内部構造にまでアクセスできるため、特定の業界用語や社内文書を学習させて専門的なAIアシスタントを作ったり、不要な機能を削ぎ落として特定のタスクに特化した超軽量モデルを開発したりと、そのカスタマイズの自由度は無限大です。

これは、AIがクラウドの向こう側にある遠い存在から、開発者が自由に改造できる「素材」へと変化したことを意味します。企業はAI活用の主導権を取り戻し、自社のビジネスに最適化された、真に価値のあるソリューションを創出していくことになるでしょう。

LM Studioがgpt-ossに対応

「LM Studio」をはじめ様々なツールが対応を進めています。

強力すぎるAIの諸刃の剣。OpenAIが示す「安全なオープン化」への道筋

強力なAIモデルを誰もが自由に使えるようにすることは、大きな可能性と同時に、悪用のリスクという諸刃の剣を伴います。OpenAI自身、6年前にGPT-2を公開した際、その強力さゆえにフェイクニュースの大量生産や悪意あるプロパガンダへの利用を懸念し、段階的な公開という慎重な姿勢を取りました。今回、再びオープン化へと踏み切るにあたり、安全性を最優先事項として掲げ、入念な対策を講じました。

OpenAIは、モデルをリリースする前に、その潜在的なリスクを評価するための「Preparedness(備え)フレームワーク」という独自の枠組みを設けています。このフレームワークでは、サイバー攻撃への加担、生物・化学兵器に関する危険な情報の生成、世論操作といった複数のカテゴリでモデルの危険度を厳しく評価します。そして、社内で設定した安全基準をクリアしたモデルのみが公開を許可されます。

「gpt-oss」もこの厳格なテストプロセスを経ており、有害なコンテンツを生成しないよう、様々な手法で抑制するように訓練されています。さらに、外部の専門家チームによるレビューも実施し、オープンモデルにおける新たな安全基準を打ち立てているとのことです。

こうした安全性に関する取り組みの詳細は、モデルの仕様や特性を記したモデルカードや研究論文としてすべて公開されており、透明性の確保にも最大限配慮しています。モデルカードには、推奨される使い方だけでなく、誤情報拡散への利用禁止といった禁止事項も明確に記載されており、開発者コミュニティに対して責任ある利用を強く呼びかけています。

OpenAIウェブサイトのモデルカード

OpenAIのウェブサイト(https://openai.com/ja-JP/index/gpt-oss-model-card/)からモデルカードを閲覧できます。

天秤AI byGMO

今すぐ最大6つのAIを比較検証して、最適なモデルを見つけよう!

無料で天秤AI by GMOを試す

LM Studioで「gpt-oss-20b」を動かしてみた

自宅のPCで、ChatGPTのようなAIを動かせたら……そんな夢が、いよいよ現実のものとなりました。プログラミングの知識がなくても、マウス操作だけで手軽にLLMを試せるツール「LM Studio」を使い、200億(20B)パラメータを持つ「gpt-oss-20b」を動かしてみました。このモデルはChatGPT o3-mini相当の性能を持つと言われています。

より高性能な120Bモデルも同時に公開されましたが、こちらは巨大なメモリを持つGPUが必要なので一般家庭で動かすことは難しいのです。私のPCが搭載しているグラフィックボードは、VRAM(ビデオメモリ)が12GBのモデルです。一般的なゲーミングPCとしてはまずまずのスペックですが、20BクラスのLLMを動かすには心許ないです。しかし、試したところ、起動することができました。

早速プロンプトを入れてみましょう。自己紹介をしてもらったところきちんとした日本語で返答してくれました。しかし、ナレッジカットオフが2023年11月と古い情報になっています。OpenAIのサイトでは2024年6月となっているので、食い違いが見られました。

gpt-oss-20bの自己紹介

そつなく自己紹介してくれたもののナレッジカットオフの時期は間違いのようです。

次に、簡単なコードを書かせてみました。ChatGPTのように実行する機能は持っていないのですが、きちんとしたコードを生成することができました。出力スピードもそこまで遅くなく、実用的です。

gpt-oss-20bによるコード生成

簡単なコードであれば短時間で作成してくれます。

爆弾の作り方を聞いたり、アダルト小説を書かせようとすると、「I'm sorry」と拒否してきます。筆者が知っている範囲でプロンプトインジェクションという攻撃も試してみましたが、一通り拒否するので、ガードレールはきちんと動作していることがわかります。

gpt-oss-20bの有害コンテンツ生成拒否

ローカルで動作させるとはいえ、有害コンテンツは生成できません。

私の代わりに原稿を書いてもらうことはできるのでしょうか。試しに、ゴールデンレトリバーの魅力を1000文字のコラムにしてもらいました。ちょっと文章は固いですが、問題ありません。

gpt-oss-20bによるコラム作成

-----------------------------------------------------
■プロンプト
あなたはベテランのペットライターです。ゴールデンレトリバーの魅力を伝える最高の記事を書いてください。
-----------------------------------------------------



■出力

~略

ゴールデンレトリバーの魅力を語り始めると、まずその柔らかな金色の被毛が人々の心を掴む点に気づきます。
ふわっとした毛並みは、朝日や夕暮れの光で輝き、まるで自然の中に溶け込んだような印象を与えます。
この犬種は古くから猟犬として活躍しており、その知能と協調性が高いことでも知られています。
狩猟の場面では素早い判断力と優れた嗅覚で獲物を追跡し、飼い主との信頼関係を築く姿はまさにチームワークそのものです。

実際に家庭でゴールデンレトリバーを迎えると、その愛らしい性格がすぐに現れます。
社交的で好奇心旺盛なため、子どもや他のペットとも円滑に関わることができます。
また、柔軟な性質はしつけやトレーニングを楽しく行える要因です。
正確な指示と一貫したルール設定だけでなく、褒め言葉やおやつを使ったポジティブリインフォースメントが効果的です。
適切に訓練されたゴールデンレトリバーは、家庭内の安全管理にも大いに役立ちます。

~略

10.9と10.11のどちらが大きいか、というLLMが苦手な質問もしてみたのですが、見事正解。コンパクトモデルの「gpt-oss-20b」ですが、十分な性能を持っていることがわかります。

gpt-oss-20bによる小数点比較

小数点の比較も問題なく正解してくれました。


まとめ:AI市場の新たな競争と協調時代の幕開け

OpenAIによる「gpt-oss」のリリースは、同社にとって6年ぶりとなるオープン路線への歴史的な回帰であり、AI業界全体にとっても大きな転換点となる出来事です。これまで一部の専門家しか触れることのできなかったフロンティアレベルのAIが、オープンモデルという形で世界中の開発者の手に渡った意味はとても大きいものです。企業はデータ主権を保ちながら自社に最適化されたAIを構築でき、研究者はAIの内部構造を深く探求することで、技術革新をさらに加速させることができるでしょう。

AIの価値はクローズドな環境で性能を競うだけでなく、いかに多くの開発者を巻き込み、多様なアプリケーションを生み出すエコシステムを構築できるかが鍵を握っています。この動きに刺激され、競合他社も追随する可能性は高く、新たな局面を迎えることになるでしょう。今後の展開に注目です。


この記事の監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。

天秤AI by GMOイメージ

最新のAIが勢ぞろい! 天秤AI by GMOなら、最大6つのAIを同時に試せる!

無料天秤AI by GMOを試す