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星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。
Anthropicは2025年10月16日、生成AIモデル「Claude」シリーズの最新版である「Claude Haiku 4.5」を公開しました。中核モデルである「Claude Sonnet 4」と同レベルのコーディング性能を維持しつつ、コストは3分の1、処理速度は2倍以上ととても高いコストパフォーマンスを実現しています。今回は、この「Claude Haiku 4.5」について詳しく解説します。

SWE-benchのスコアでは、Claude Haiku 4.5はSonnet 4を超え、Sonnet 4.5に近づいています。
驚異のコストパフォーマンス、価格破壊が起こす業界変革
Claude Haiku 4.5の特徴は、何といっても、驚くべきコストパフォーマンスにあります。Anthropicは「かつて最先端だったものが、今ではより安価で高速になりました」と宣言しました。
これは決して大げさな表現ではありません。なんと、わずか5ヶ月前には同社の最先端モデルであった「Claude Sonnet 4」とほぼ同等の性能を、3分の1のコスト、そして2倍以上のスピードで実現してしまったのです。API価格は、入力100万トークンあたり1ドル、出力は5ドル。これは、これまで高性能AIの利用をためらわせていた経済的なハードルを、一気に引き下げる価格設定です。
この変化がもたらす影響は計り知れません。例えば、これまでコスト面で見送られていた、企業の全従業員が日常的に使えるAIアシスタントの開発や、無料サービスに高度なAI機能を組み込むといったアイデアが、いよいよ現実味を帯びてきます。実際に、プレゼンテーション作成ツールを提供するGamma社の共同創設者は、「これは当社のユニットエコノミクスにとって画期的なことだ」とコメントを寄せており、Haiku 4.5が単なる技術的な進歩ではなく、ビジネスの採算性を根本から変えるゲームチェンジャーになり得ることを裏付けています。
小さな巨人の頭脳、上位モデルに匹敵する性能
Claude Haiku 4.5の真価は、その価格やスピードだけに留まりません。驚くべきはその「頭脳」の質です。「小型モデル」というカテゴリーに分類されながら、その実力は大型モデルに決して引けを取らないのです。特にその能力が際立つのが、ソフトウェア開発の領域です。
難易度の高いソフトウェアエンジニアリングのベンチマークテスト「SWE-bench Verified」において、Haiku 4.5は73.3%という極めて高いスコアを記録しました。これは、はるかに高価な上位モデルであるSonnet 4に匹敵する成績で、いかにこの小さな巨人が賢いかを物語っています。
これまで上位モデルの専売特許だった高度な機能が搭載されているのも特徴です。例えば、応答を返す前により深く思考するための「拡張思考(Extended Thinking)」機能をHaikuシリーズとしては初めて搭載しています。単純な応答だけでなく、多段階の複雑な推論を必要とするタスクにも対応できるようになりました。
コンテキストウィンドウは20万トークンで変わりませんが、出力トークンはClaude Haiku 3.5の8192トークンから6万4000トークンに大幅アップです。ちなみに、ナレッジカットオフは2025年2月となっています。

ClaudeシリーズとGPT-5、Gemini 2.5 Proのベンチマークスコアです。
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マルチエージェントシステム、AIの新しい活用法
Claude Haiku 4.5は私たちにAIの新しい活用法を提案しています。それは、「一つの万能なAIに全ての仕事を任せる」という考え方からの脱却です。代わりに提唱されているのが、それぞれのモデルの得意分野を活かしてチームを組ませる「マルチエージェントシステム」という考え方です。
もっとも賢くパワフルなOpusやSonnetのようなモデルが「司令塔(オーケストレーター)」の役割を担います。司令塔は、複雑なプロジェクト全体を把握し、それを実行可能な小さなタスクに分解して、具体的な計画を立てるのです。その計画に基づいて、多数のHaiku 4.5からなる「実行部隊(エグゼキューター)」が、分解されたサブタスクを一斉に、並行して処理します。Haiku 4.5の「低コスト」と「超高速」という特性が、無数の実行部隊を同時に稼働させることを経済的に可能にしたのです。
システム全体では司令塔の高度な知能と、実行部隊の圧倒的な処理能力(スループット)を両立できる、まさに最強のチームが誕生します。金融サービス企業BlockのBrad Axen氏が「スピードはフィードバックループで動作するAIエージェントの新たなフロンティアだ」とコメントしているように、これからのAI活用は、単一モデルの性能を追い求めるのではなく、いかにして俊敏で効率的なAIチームを構築するかが鍵となっていくのかもしれません。
"賢さ"から"賢さと安全の両立"へ、企業が安心して使えるAIの条件
どんなに賢く、便利なAIであっても、企業がそれを大規模に導入する際には、「安全性」という大きな壁が立ちはだかります。予期せぬ不適切な応答や、情報漏洩のリスクは、ビジネスにとって致命傷になりかねません。
そこでAnthropicはHaiku 4.5をラインナップの中で「最も安全なモデル」としてリリースしました。Haiku 4.5は、AIの安全レベルを示す「ASL-2」という認証を受けています。これは、化学兵器の製造のような極めて危険な情報に関するリスクが限定的であり、企業や一般ユーザーが広く利用しても問題が少ないことを示す、いわばお墨付きです。
さらに、無害な質問に対して過剰に回答を拒否してしまう、いわゆる「丁寧すぎるAI」の問題も大幅に改善。その拒否率は、前身モデルの4.26%から、わずか0.02%へと劇的に低下しました。これは、ユーザーにとっての使いやすさと、企業にとっての信頼性を高いレベルで両立させた結果と言えるでしょう。
多くの人々が使う可能性が高いモデルだからこそ、最高の安全性を確保するというAnthropicの姿勢は、AI開発の競争軸が、単なる"賢さ"の追求から、いかにして"信頼"を勝ち得るかという、より成熟したステージへと移行していることを示しています。
まとめ
Claude Haiku 4.5は、単なる一つの新しいAIモデルという枠には収まりきりません。それは、AIを取り巻く経済性、最適な使い方、そして安全性という、三つの重要なテーマに対するAnthropicからのパワフルな提言です。「高性能AIは高価である」という常識を打ち破り、「適材適所でAIのチームを組む」という新しいワークフローを提示し、そして「最も身近なAIにこそ最高の安全性を」という哲学を実装しました。
この変化の波は、もはや専門の開発者や一部の先進企業だけのものではありません。Haiku 4.5が開いた扉の先には、AIが特別なツールではなく、電気や水道のように私たちの仕事や生活の背景に常に存在する「環境型ユーティリティ」へと進化していく未来が広がっています。リアルタイムの顧客対応、瞬時に完了するコーディング支援、膨大なデータの常時監視。これまでコストや速度の制約で実現が難しかったことが、次々と可能になっていくでしょう。
すでにClaudeではHaiku 4.5を選択できるようになっており、無料プランでも利用できます。一度触ってみてください。Sonnet 4以上の性能なのに、より短時間で出力される快適さはクセになること請け合いです。
この記事の監修
柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。
