
[]

星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。
2025年5月19日、マイクロソフトが毎年開催している世界最大級の開発者向けカンファレンス「Microsoft Build 2025」で、科学技術の世界に激震が走るような発表がありました。その名も「Microsoft Discovery(以下、Discovery)」。企業向けに開発された新しいAIプラットフォームで、これまでの研究開発(R&D)の進め方を根本から変えてしまうかもしれない、まさに夢のようなツールなんです。
これまで数ヶ月、もしかしたら数年もかかっていたような研究開発のプロセスが、なんとわずか数百時間で完了するかもしれないというのですから、驚きです。このDiscoveryは、特殊なAIエージェントたちと、情報を整理してつなぎ合わせるグラフベースの知識エンジンを組み合わせることで、科学的な発見のスピード、規模、そして精度を、これまでにないレベルへと引き上げてくれると期待されています。
今回は、世界を変える可能性を秘めた、このDiscoveryについて解説します。
MicrosoftはR&Dを大きく加速するDiscoveryを発表しました。
AIエージェントと知識のタッグ!Discoveryが解き明かす研究の新たなカタチ
科学の世界って、本当に奥が深いです。膨大な量の知識があって、その一つ一つが微妙なニュアンスを含んでいたり、あちこちに情報が散らばっていたりします。新しい何かを発見するプロセスも、とっても多様でダイナミックです。時には、全く違う専門分野の知識を組み合わせる必要も出てくるので、全体像を把握するのは至難の業。
研究開発というのは、基本的に何度も試行錯誤を繰り返す地道な作業で、パッと簡単に答えが見つかることなんて滅多にありません。たくさんの証拠を集めたり、様々な角度から議論を重ねたり、少しずつ改良を加えたりしながら、科学の知識はゆっくりと進化してきました。
Discoveryが目指しているのは、こういった複雑な研究開発のプロセスを、単にスピードアップするだけではなく、研究開発への取り組み方そのものを、ガラッと変えてしまおうという壮大な目標を掲げています。
もし、科学者たちが、まるで人間のように知的で、しかも疲れ知らずのAIエージェントチームと一緒に研究を進められるようになったら……イノベーションのスピードは、きっとものすごく加速するはずですよね。研究者と、それぞれの専門分野に特化したAIエージェントが協力し合うことで、科学的な手法のあらゆる段階にAIが自然に組み込まれていく、そんな新しい研究スタイルが生まれようとしています。
この新しい世界では、人間と専門知識を持ったAIエージェントがタッグを組んで、リアルタイムで知識を深めたり、実験結果を分析したりしながら、継続的かつ反復的に発見のサイクルを回していくことになります。
何より素晴らしいのは、企業や政府機関が求めるような、しっかりとした管理体制や透明性、そして信頼性を保ちながら、プロセスを進めていけるという点なんです。
Discoveryの中心にあるのは、強力なグラフベースの知識エンジン。これは、単に事実を検索するだけでなく、企業が持つ独自のデータと、外部にある膨大な科学研究の情報との間に隠れている、微妙な関係性までもグラフの形で描き出してくれます。このおかげで、時には矛盾しているように見える理論や、多様な実験結果、さらには分野をまたいだ根本的な仮説まで、プラットフォームが深く理解することができるようになるのです。
しかも、この推論プロセスはとても透明性が高く、一方的に「これが答えです!」と提示するのではなく、詳細な情報源や、どうしてその結論に至ったのかという思考の道のりを示してくれるので、専門家は常に状況を把握し、安心してAIと協力できるのです。
地道な試行錯誤をAIエージェントが効率的に行ってくれます。
数年が数百時間に短縮!?PFASフリー冷却材発見に見るDiscoveryの実力
マイクロソフトの研究者たち自身による実証実験で、Discoveryの高度なAIモデルとHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)シミュレーションツールを駆使して、なんと約200時間という短期間で、PFAS(有機フッ素化合物の一群)を含まない、革新的なデータセンター向け浸漬冷却剤のプロトタイプを発見したのです!
通常、新しい冷却剤を開発するには何年もかかることが多く、しかも、その中には有害性が指摘されるPFASベースの化学物質が含まれていることも少なくありませんでした。このPFASは「永遠の化学物質」とも呼ばれ、環境への影響が懸念されることから、世界的に使用を禁止する動きが広がっています。そんな中、安全な代替物質を迅速に見つけ出すことは、喫緊の課題だったんですね。
Discoveryによるデジタルな発見プロセスの後、この新しい冷却材プロトタイプは、わずか4ヶ月未満という驚異的なスピードで実際に合成することに成功し、現在もさらなる分析と改良が進められています。
すでにこの材料の主要な特性のいくつかが検証され、AIが行った予測と一致していることが確認されているんです。これは、Discoveryで使われた予測モデルの精度がいかに高いかを証明していますよね。
このプロジェクトはまだ実験段階ではありますが、将来の冷却技術の開発と改善に向けた重要な基礎を築いたと言えるでしょう。まさに、HPCと専門化されたAIモデルの組み合わせが、R&Dプロセスをどれだけ加速し、変革できるかを示した素晴らしい事例です。
液体冷却ソリューションを提供するSubmer社の創設者であるDaniel Pope氏も、「Discoveryによって達成された分子スクリーニングの速度と深さは、従来の方法では到底不可能だったでしょう。かつては何年もの実験室での作業と試行錯誤を要したことが、Discoveryではわずか数週間で、しかもより高い確信を持って成し遂げられるのです」と、その能力を高く評価しています。
「PFASを使わない冷却材を探して」とプロンプトを入力しているDiscoveryのデモ画面です。

今すぐ最大6つのAIを比較検証して、最適なモデルを見つけよう!
研究者とAIの最強タッグが実現する!Discoveryがもたらす未来の研究スタイル
Discoveryが提案するのは、研究者の方々が主役となり、まるで優秀なアシスタントチームを率いるかのように、専門分野に特化したAIエージェントたちを導き、協力し合う、新しい研究のパラダイムです。これらのAIエージェントは、単に情報を処理するだけでなく、研究活動そのものを実行する能力を持っています。そして、時間とともに学習し、状況に適応していく賢さも兼ね備えています。
研究開発チームは、自分たちの特定の研究プロセスや知識に合わせて、オリジナルのカスタムAIチームを構築することができます。そして、チームが持つ専門知識や研究方法論を、まるで新しいメンバーに教えるかのように、AIエージェントに簡単に組み込むことができるんです。この柔軟性は、研究チームがコンピューターサイエンスの深い専門知識を持っていなくても、大きなインパクトを生み出すことを可能にする鍵となるでしょう。
そして、この人間とAIエージェントのコラボレーションの中心的な役割を果たすのが、「Microsoft Copilot」です。Copilotは、科学的な分野に特化したAIアシスタントとして機能し、研究者の指示に基づいて、これらの専門AIエージェントたちを巧みに調整し、オーケストレーションします。Copilotは、顧客のプラットフォーム上にある全てのツール、モデル、そして知識ベースを把握しており、どのエージェントを活用すべきかを的確に判断します。そして、これらのエージェントたちが協力し合い、高度なAI技術とHPCシミュレーションを組み合わせることで、発見プロセスの最初から最後までを網羅する、エンドツーエンドのワークフローをスムーズに設定することができるのです。
Discoveryは、マイクロソフトが誇るAzure HPCやAzure AI Foundryといった強力なインフラの上で稼働しており、企業レベルで求められる高度な制御性や透明性、そして信頼性を確保しています。これまでのデジタルシミュレーションツールは、非常に専門化されている一方で、他のツールとの連携が難しかったり、あらかじめ決められた動作しかできないというのが普通でした。
しかし、Discoveryのアプローチは、それらとは比較にならないほど柔軟性に富んでいます。まるで、優秀で経験豊富な研究者たちが、互いの専門知識を活かしながら、森全体を見渡しつつ、一本一本の木も詳細に観察するように、人間の持つ創意工夫を真に増幅させてくれる、そんな未来の研究スタイルが現実のものとなろうとしているのです。

Copilotが人間とAIエージェントをオーケストレーションしてくれます。
まとめ:科学とAIの融合が加速する!Discoveryが開く無限の可能性への扉
Microsoft Discoveryの登場は、科学者やエンジニアの方々が研究開発に取り組む方法を、根本から、そして劇的に変える大きな可能性を秘めていると言えるでしょう。単に既存の研究プロセスを効率化するだけにとどまらず、科学的な発見という行為そのもののあり方、つまりパラダイム自体を大きく変革しようとしています。
賢いAIエージェントたちと、それらを支える強力なグラフベースの知識エンジンの組み合わせによって、これまで数ヶ月から数年という長い時間が必要だった発見のプロセスが、驚くことにわずか数百時間で実現するかもしれないのです。実際に、PFASを含まない新しい冷却材が短期間で発見されたという事例は、Discoveryが持つ計り知れない潜在能力の、ほんの一端を示しているに過ぎません。
Discoveryの素晴らしいところは、拡張性の高さと企業レベルでの利用にもしっかりと対応している点です。化学や製薬、材料科学、半導体設計、エネルギー、製造業など、本当に幅広い分野の研究開発チームが、最新のAI技術を自分たちの研究に活用できるようになります。これから、様々な分野で革新的な成果が次々と生まれてくることが期待されますね。
研究者が長年培ってきた専門知識と、AIが持つ圧倒的な計算能力。この二つが融合することで、科学的な発見のスピードと質は飛躍的に向上し、私たちの生活をより豊かにする新しい発明や製品が、これまでよりもずっと早く社会に届けられるようになるでしょう。Microsoft Discoveryの登場によって、科学研究の新たな時代が、まさに今、幕を開けようとしています。これからの展開が本当に楽しみですね!
この記事の監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。