[]
星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。
2025年10月29日、Google及びAlphabetのCEOであるスンダー・ピチャイ氏は、2025年第3四半期の決算発表を行いました。同社にとって記録的な成長を示すもので、四半期として初めて売上が1000億ドルに達したとのことです。ピチャイCEOは、この驚異的な成長の原動力がAIにあると明言しました。
5年前に四半期売上が500億ドルだったことを思えば、その成長速度は凄まじいものがあります。今回の発表は、単なる好調な業績報告に留まりません。そこからは、Googleが生成AI時代において、いかなる思想を持ち、どのように世界をリードしようとしているのか、その明確な哲学が浮かび上がってきます。
AIインフラから製品まで、全てを掌握する「フルスタック」という思想
GoogleのAI戦略の根幹を成すのは、ピチャイCEOが強調する「フルスタック・アプローチ」です。AIを駆動させるための最も基本的なインフラから、世界最高水準の研究開発、そして最終的にユーザーや企業が触れる製品・プラットフォームに至るまで、AIに関する全てを自社で垂直統合的に掌握しようとする考え方です。
まずインフラにおいて、GoogleはパートナーであるNVIDIAの最新チップ「GB300」を搭載したインスタンスをCloud顧客向けに提供開始すると同時に、自社開発の第7世代TPU「Ironwood」の一般提供も間近に迫っています。このTPUの需要は極めて高く、パートナーであるAnthropicが最大100万ユニットのTPUにアクセスする計画を共有したほどです。GPUとTPU双方の選択肢を提供できる企業は他にありません。
次に研究開発です。Gemini 2.5 Pro、Veo、Genie 3といったモデル群の性能は世界最高クラスであり、開発者がこれらの生成モデルで構築した実績は1300万件を超えています。さらに、量子チップ「Willow」が従来のスーパーコンピュータを1万3000倍も上回る速度でアルゴリズムを実行するというブレークスルーも発表されました。
こうした研究成果は、現役Google社員から過去2年で3人ものノーベル賞受賞者を輩出している事実にも裏打ちされています。そして製品への展開。Googleの全サービスにおける月間トークン処理量は、この1年で20倍以上増加し、今や1.3京トークンという天文学的な数字に達しています。このインフラ、研究、製品という3つの層を全て自社で押さえ、相互に連携させていくことこそが、GoogleのAIにおける優位性だと言えるでしょう。
2025年第3四半期決算では四半期売上高が1000億ドルを超えました。
「検索の拡張期」を宣言、AIが変える情報アクセスの未来
Googleの祖業であり、今もなお中核を成す検索ビジネスですが、ピチャイCEOは、AIがこの検索に「拡張期(expansionary moment)」をもたらしていると表現しました。これは、AIが検索体験を根本から変え、ユーザーがGoogleに求めるものの質と量を拡大させていることを意味します。人々は、新しいAI体験によって「こんなことまで聞けるのか」と学習し、結果としてGoogleをより頻繁に利用するようになっているのです。
具体的には、検索結果の上部にAIによる要約を表示する「AI Overview」や、対話的に検索を進められる「AI Mode」が、クエリ(検索回数)の成長を牽引しています。特にAI Overviewがもたらすクエリ成長は第3四半期にさらに加速し、若年層でその傾向が顕著である点は注目されます。
AI Modeはユーザーからの評価も高く、米国でのローンチ以来、週を追うごとに着実な利用成長を見せ、四半期でクエリ数が倍増しました。このAI Modeは、記録的なスピードでグローバル展開が進み、すでに40言語で7500万人のデイリーアクティブユーザー(DAU)を抱えています。
重要なのは、AI Modeが既存の検索利用を代替するのではなく、検索全体のクエリ総数を増加させている点です。Googleは、AIが情報の答えを提示する一方で、従来通り、毎日何十億ものクリックを(情報源である)サイトに送っている、とも述べており、エコシステム全体への配慮も示しています。AIによって「情報を探す」行為が「AIと対話し、答えを得る」行為へと変容していく。これは単なる機能追加ではなく、情報アクセスという人間の根源的な行動様式を変えようとするGoogleの思想が具体化したものなのです。
今すぐ最大6つのAIを比較検証して、最適なモデルを見つけよう!
研究から実利へ――CloudとYouTubeで加速するAIのビジネス実装
GoogleのAI哲学は、決してアカデミックな研究や技術的な優位性の追求だけに留まりません。むしろ、それをいかに迅速かつ大規模にビジネスの実利へと結びつけるか、という点にこそ強いこだわりが見えます。その最たる例が、Google Cloud事業の加速です。
ピチャイCEOは、Cloudの収益、営業利益、そして受注残(バックログ)の成長を、エンタープライズAI製品ポートフォリオが牽引していると述べました。Cloudのバックログは前四半期比で46%も増加し、1550億ドルに達しています。顧客動向も好調で、GCP(Google Cloud Platform)の新規顧客数は前年比34%増、今年第3四半期までに契約した10億ドル超の大型案件数は、過去2年間の合計を上回りました。さらに、既存顧客の70%以上、そしてAI研究所の上位10社のうち9社がGoogle CloudのAI製品を利用しているそうです。
その技術は具体的なビジネス成果を生んでいます。例えば、広告代理店のWPPは最大70%の効率向上を実現し、SwarovskiはEメールの開封率を17%増加させ、キャンペーンのローカライズを10倍高速化しました。職場向けAIの新しい入り口として提供が開始された「Gemini Enterprise」も、すでに700社で200万以上のサブスクライバーを獲得しています。
この流れはYouTubeも同様です。クリエイター向けには、Veo 3のような生成ビデオツールやAIによる編集支援が提供され、コンテンツ制作のワークフロー全体が合理化されています。同時に、AIが動画内の商品を自動的に特定し、視聴者が購入しやすくすることで、クリエイターの収益化も強力にサポートしています。研究成果を、計測可能な「効率化」と「収益化」という形でビジネスの現場に実装すること。これこそがGoogleのAI哲学の現実的な側面です。
生活の隅々へ、AIを「空気」にするPixel、XR、Waymoの野心
Googleが描くAIの未来像は、PCの画面やデータセンターの中だけに留まるものではありません。彼らの「哲学」は、AIを人々の日常生活のあらゆる場面に浸透させ、まるで空気のように当たり前の存在にすることを目指しています。その戦略的な布石が、ハードウェア製品群へのAIの組み込みです。
8月に発表された「Pixel 10」シリーズは、Geminiを実行するために設計された最強のチップ「Tensor G5」を初めて搭載しました。これは、クラウド上の強力なAIだけでなく、デバイス上でも高度なAI処理を行うという意思表示です。さらに、先週発表された新OS「Android XR」とSamsungの「Galaxy XR」デバイスは、ヘッドセットやグラスといった新しいフォームファクタにおいても、Geminiをその体験の中核に据えることを示しています。
そして、完全自動運転技術を開発するWaymoも、その展開を加速させています。来年にはロンドンでのサービス開始を目指し、東京でのサービス導入にも取り組んでいます。米国でもダラス、ナッシュビル、デンバー、シアトルへと拡大し、空港への完全自律走行も許可されました。法人向けの「Waymo for Business」や、フェニックスで開始された10代向けの「Waymo Teens」アカウントなど、そのユースケースも着実に多様化しています。
これらの動きはすべて、検索、仕事、移動、そして現実空間の認識といった、生活のあらゆる局面においてGoogleのAIが介在する未来を描き出しています。これは、AIを「便利なツール」から「生活の基盤」そのものへと昇華させようとする、Googleの壮大なビジョンと言えるでしょう。
1000億ドルの先にGoogleが見据える「AIが当たり前」の世界
今回発表された初の1000億ドル四半期という業績は、GoogleのAI戦略がすでに巨大なビジネス成果を生み出していることの証です。しかし、ピチャイCEOの発言から読み取れるGoogleの哲学は、その数字のさらに先を見ています。それは、「インフラからデバイスまで全てを押さえ(フルスタック)」「情報アクセス体験を変革し(検索)」「あらゆるビジネスを効率化し(Cloud/YouTube)」「生活空間の隅々にまで浸透させる(Pixel/XR/Waymo)」という、AIを中心とした世界観です。
彼らにとってAIは、単なる一つの技術分野ではなく、社会のオペレーティング・システムそのものを書き換える力を持つものです。GoogleのAI哲学は、技術的な優位性を追求すると同時に、それをいかに実社会とビジネスに実装し、収益を上げ、最終的に人々の生活様式そのものを変えていくか、という点に強くフォーカスされています。この決算発表は、GoogleがAIという強力なエンジンを手に入れ、次の時代の覇権を握るための態勢を整えつつあることを示しています。1000億ドルという数字は、彼らが目指す「AIが社会の基盤として当たり前に存在する未来」への、一つの通過点に過ぎないのかもしれません。
この記事の監修
柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。
