[]
星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。
11月18日、GoogleはGemini 3を発表しました。
大仰なイベントを開催したりせず、淡々と検索エンジンや開発者プラットフォームへ実装されたので驚きました。これまで先駆者であるOpenAIを追いかける「挑戦者」としての印象が強かったGoogleですが、この落ち着いたリリースは、フェーズが変わったことを宣言しているように感じ、Googleが再度、王者の風格を漂わせています。
今回は、最新・最高のAIであるGemini 3に関して解説します。

Gemini 3が静かにお目見えしました。
首位を獲得したGemini 3 Pro
新たにお目見えした「Gemini 3 Pro」は、LLMの総合的な品質を評価するLMArenaリーダーボードにおいて、ELOスコア1501という驚異的な数値を叩き出し、首位の座を獲得しました。しかし、数字の大きさ以上に注目を集めているのが、その中身、すなわち「推論能力」の質的な向上です。 博士号レベルの高度な学術的知識と推論力が問われる「Humanity's Last Exam」において、Gemini 3 Proは37.5%というスコアを記録しました。ライバルであるGPT-5.1が26.5%に留まっていることを踏まえると、この差は誤差ではなく、大きな実力差を示していると言えます。
LMArenaリーダーボードで首位に躍り出ました。
Deep Thinkモードの強化
さらにGoogleは、難問解決のために「思考」する時間を設ける「Deep Think」モードを強化しました。 これは人間で言えば、即答せずに熟考するプロセスに相当します。課題解決能力を測るARC-AGIなどのテストにおいて、標準モデルをさらに上回る成績を収めています。 数学的推論を測るMathArena Apexでの23.4%という最高スコアや、事実の正確性を問うSimpleQA Verifiedでの72.1%という数字は、AIが複雑な論理を組み立て、正解を導き出す「思考パートナー」へと進化したことを証明しています。
Gemini 3のDeepThinkはGPT-5 Pro以上の性能をたたき出します。
今すぐ最大6つのAIを比較検証して、最適なモデルを見つけよう!
検索体験を変える「生成UI」
Gemini 3は私たちの目に見えるインターフェース、特にGoogle検索という日常的な体験も変えようとしています。 これまで私たちは、検索窓にキーワードを入れ、表示された青いリンクを上から順にクリックして情報を探していました。しかし、Gemini 3が搭載された新しいGoogle検索は「生成UI」という概念を導入しました。 これは、ユーザーの問いかけに応じて、最適なウェブページをAIがその場でコーディングし、生成してしまうという機能です。
たとえば、「来年の夏、ローマへ3日間の旅行に行きたい」と入力したとしましょう。従来の検索結果のように旅行代理店のリンクが並ぶのではなく、AIがその場で、観光スポットの写真、地図、移動時間を考慮したタイムライン、そして予約ボタンまで備えた、まるで旅行雑誌の特集ページのような画面を生成します。
あるいは、「住宅ローンの返済計画を知りたい」と問えば、金利や年数を自由に操作できるインタラクティブな計算ツールが、検索結果の一部として構築され表示されます。単なる情報の羅列ではなく、ユーザーが「何を知りたいか」「何をしたいか」を汲み取り、それに最適な道具や画面を動的に作り出す。これは、ウェブブラウザというものが、受動的な閲覧ソフトから、能動的なアプリケーション生成エンジンへと進化することを意味しています。静的なコンテンツを探す時代は終わり、自分だけの体験を生成する時代が到来したのです。
AIモードはまずは米国から利用可能になります。
Google Antigravity: 自律的な開発プラットフォーム
開発者にとってのGemini 3は、さらに強力な相棒となります。Googleが新たに公開した開発プラットフォーム「Google Antigravity」は、AIによるコーディング支援を「エージェント」の領域へと引き上げました。世界中の開発者に愛用されているMicrosoftの「VS Code」をベースに作られたプラットフォームで、使い慣れた操作感はそのままに、中身は自律的に思考し行動するようになったのです。これまでのAIコーディング支援は、あくまで「次の数行を提案する」程度のものでしたが、Antigravityのエージェントは次元が異なります。
「この要件でウェブアプリを作って」と指示するだけで、エージェントは必要なファイルを計画し、ターミナルを操作して環境を構築し、コードを書き、さらにはブラウザを立ち上げて動作確認まで行います。もしエラーが出れば、自分でログを読み解き、修正案を考え、再実行します。
開発者は、エージェントが自律的に作業する様子をスクリーン録画やスクリーンショットで確認し、まるで部下に指示を出すように、生成された成果物に対してGoogle Docsのような感覚でコメントを残してフィードバックを行えます。GitHub Copilotなどの既存ツールと比較しても、ソフトウェアエンジニアリングの課題解決において高い精度を示しており、開発者はコーディングという作業から解放され、より上位の設計やアイデア出しに集中できるようになるでしょう。
バイブコーディングでインタラクティブで見た目のいいUIやアプリを手軽に作成できます。
ネイティブ・マルチモーダルの真価
Gemini 3の真価は、テキスト、画像、音声、動画といった異なる種類のデータを、人間のように区別なく理解し、処理できる「ネイティブ・マルチモーダル」な能力にあります。これは実験室の中だけの話ではありません。楽天グループとの実証実験では、画質の悪い不鮮明な商品画像や、周囲の雑音が混じる音声データといった、現実世界特有の「汚れたデータ」の処理において、従来モデルを50%以上も上回る性能を発揮しました。
また、Googleはこの強力なモデルを、広範なエコシステム全体に浸透させつつあります。GmailやGoogleドキュメント、Androidスマートフォンといった、私たちが毎日触れるツールの中にGemini 3の知能が組み込まれることで、「メールの内容から予算に合うレンタカーを探し、予約の準備をする」といった、アプリを横断した複雑なタスクが可能になります。
企業向けには、Googleの包括的な安全評価基準であるSAIF(セキュア AI フレームワーク)に基づいて開発された堅牢性が提供され、機密情報を扱う業務でも安心して導入できる環境が整えられています。
透明なAIインフラの未来
Googleは、検索という最強のタッチポイントと、AndroidやWorkspaceという巨大なエコシステム、そして今回手に入れた圧倒的なモデル性能を掛け合わせることで、他社が容易には模倣できない盤石な地位を築きつつあります。
派手な花火を打ち上げるのではなく、水道や電気といったインフラのように、あって当たり前の存在としてAIを普及させること。私たちが意識することなく、検索結果が最適化され、面倒な予約作業が完了し、仕事のプログラムが書きあがっている。そんな社会に浸透する透明なAIが支える未来が実現しつつあります。
この記事の監修
柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。
