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アイサカ創太(AIsaka Souta)AIライター
こんにちは、相坂ソウタです。AIやテクノロジーの話題を、できるだけ身近に感じてもらえるよう工夫しながら記事を書いています。今は「人とAIが協力してつくる未来」にワクワクしながら執筆中。コーヒーとガジェット巡りが大好きです。
私たちの日常に欠かせないウェブブラウザですが、情報を検索し、ページを閲覧する「窓」として、ここ10年以上、その基本的な役割は大きく変わっていませんでした。タブ機能や速度の向上はあっても、結局のところ、情報を見つけた後の「作業」――例えば、複数のサイト情報を見比べて旅行プランを立てたり、レシピを見ながら買い物リストを作ったりするのは、すべて私たち自身の手作業でした。
そんなブラウザの常識を根底から覆すかもしれない、注目のAIブラウザがOpenAIから発表されました。その名も「ChatGPT Atlas」。単にChatGPTが使えるブラウザ、というだけではないようです。私たちのウェブ体験を「情報検索」から「タスク実行」へと、大きく変えようとしています。
OpenAIからChatGPT搭載ブラウザ「Atlas」がリリースされました。
ChatGPT Atlasが目指しているのは、単なる情報ポータルではありません。OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が「10年に一度の稀な機会」と語るように、彼らはブラウザが本来どうあるべきかを再考し、AIを中心に据えた新しい形を提示しようとしています。
従来のブラウザがウェブを「見せる」ツールだったのに対し、Atlasはウェブを「理解し、記憶し、ユーザーのために行動する」ツールを目指しています。最終目標は「真のスーパーアシスタント」の構築とのことです。
例えば、私たちが「ホームパーティに必要なグッズを調べて」とか「札幌までの最適なフライトを見つけて」と指示するだけで、AIが情報検索から比較検討、さらには予約や購入といった実際の行動までを代行してくれる世界観です。
技術的な基盤としては、Google ChromeやMicrosoft Edgeと同じオープンソースエンジン「Chromium」を採用しています。既存のウェブサイトとの互換性や拡張機能の利用といった安定性を確保しつつ、リソースをAI機能の開発に集中させるという実用的な戦略を選んだようです。
■Atlasを支える三本柱:「チャット」「メモリ」「エージェント」
Atlasの革新性を支えているのは、「チャット」「メモリ」「エージェント」という三つの主要機能が緊密に連携している点です。まず「チャット」機能。これは想像しやすいかもしれません。
ブラウザのサイドバーからいつでもChatGPTを呼び出し、今見ているページの要約や製品比較、メール作成などを、ページを離れずに実行できます。タブを移動せずにChatGPTを利用できるのはとても便利です。
さらに「カーソルチャット」機能を使えば、テキストフィールド内で文章を選択し、⌘+Eキーを押すだけで、その場で編集や翻訳をAIに依頼できます。例えば、4つの箇条書きを選択し、2倍に増やして、と指示するとすぐに追加の4項目を提案してくれるのです。まさに思考の瞬間に寄り添う機能といえます。
Atlasのメイン画面です。デフォルトでChatGPTが開きます。

チャットエリアでChatGPTに要約させてみました。

文章の編集中に「カーソルチャット」でChatGPTを利用できます。
次に「メモリ」機能。Atlasはユーザーが訪れたサイトの文脈を記憶することができ、「先週見た求人情報をまとめて、業界トレンドを要約して」といった、過去の行動に基づいた複雑なリクエストに応えられるようになります。もちろん、この記憶はユーザーがいつでも確認・削除でき、サイトごとにAIが「見る」ことを許可するかどうかも制御可能です。
そして最も野心的で、Atlasの目玉機能とも評されるのが「エージェントモード」です。これはChatGPTの有料プランユーザー向けに提供される機能で、AIがユーザーに代わって自律的にアクションを実行します。例えば、レシピサイトで献立を決め、そのままオンラインストアで必要な食材をカートに追加し、注文を完了させるといった、複数のウェブサイトをまたぐ複雑なタスクを自動化できるというのですから驚きです。
試しに、子どもの誕生パーティに使えるグッズを調べ、購入できるリンクをリストアップし、Googleスプレッドシートに書き込む、といった作業も行ってくれます。しかも、これまでのエージェント機能よりも高速で賢く、実用レベルになっていると言えるでしょう。
なお、このエージェントモードはPlus、Pro、Businessプランのユーザー向けとなっています。無料プランでは無効になっているので注意が必要です。
子供のホームパーティに使うグッズを調査してもらいました。

スプレッドシートに購入リンクまで網羅したリストが作成されました。
■利便性の代償? 向き合わなければならないプライバシーの課題
これほどまでに何でもできるとなると、当然ながら「プライバシーは大丈夫なの?」という懸念が浮かび上がります。Atlasが実現する飛躍的な生産性向上は、私たちのオンライン行動に関する広範なデータアクセスを前提としています。この根本的なトレードオフこそ、Atlasが乗り越えなければならないハードルです。
OpenAIもこの点を深く認識しており、データ管理機能の設計に注力していると説明しています。最も重要な点として、ユーザーのブラウジング内容は、デフォルトではOpenAIのモデル訓練には使用されない、と明言されています。
また、前述の「ブラウザメモリ」機能もオン・オフが選択できます。さらに、履歴やメモリを残さずにブラウジングできる「シークレットモード」も搭載。リスクが高いとされるエージェントモードについても、金融機関のような機密性の高いサイトでは自動的に一時停止し、ユーザーの明確な承認を求めるなど、厳格な安全対策を講じているとしています。
過去のプライバシーインシデントの教訓を生かし、デフォルトで安全な設計を心掛けているようですが、この「信頼」をユーザーから獲得できるかが、普及の鍵を握ることは間違いありません。
プライバシー保護の機能もきちんと用意されています。
■AIブラウザ戦国時代! AtlasはChromeの牙城を崩せるか
ChatGPT Atlasの登場は、静かだったブラウザ市場に激震を走らせました。発表直後にGoogleの株価が反応したことからも、市場がこの挑戦をいかに真剣に受け止めているかがわかります。ブラウザはあらゆるデジタル活動の入り口です。その内部のアシスタントを制する者が、ユーザーの意図とデータの流れをコントロールすることになります。
この新たな戦場で、競合も黙ってはいません。例えば、Perplexityは一足早く10月3日にAIブラウザ「Comet」をリリースしています。また、OpenAIの最大の投資家でありながら競合ともなるMicrosoftは、「Edge」と「Copilot」の連携をMicrosoft 365エコシステムと結びつけています。今後は、Chrome一強の時代から、第三次ブラウザ戦争が勃発すると思われます。今のところは、Atlasが強そうですが、今後の動向に注目です。

PerplexityのAIブラウザ「Comet」の画面です。
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ChatGPT Atlasは、単なる新しいブラウザという枠を超え、デジタル世界のための普遍的なエージェント型インターフェースを創造するというOpenAIの野心を感じさせます。もしこの「エージェントモード」が本当に信頼でき、スムーズに動作するようになれば、私たちのデジタルライフから面倒な「作業」が劇的に減る可能性を秘めています。ChatGPTの有料プランを契約しているユーザーはぜひ触ってみることをおすすめします。
この記事の監修
柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。
