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AIがAIについて人間に聞く時代へ!1,250人のプロが語った「仕事とAI」のリアルな現在地。

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AIがAIについて人間に聞く時代へ!1,250人のプロが語った「仕事とAI」のリアルな現在地。
星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター

星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター

はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。

2025年12月4日、AI企業のAnthropicは、人々のAIに対する視点を理解するための新しいリサーチツール「Anthropic Interviewer」を発表しました。同社はこのツールを用いて、一般労働者、科学者、クリエイターを含む1250人の専門家に対し、AIと仕事に関する大規模なインタビュー調査を実施したのです。

AIモデル自身がインタビュアーとなり、ユーザーの生の声を聞き出すというこの試みは、AI開発に人間中心の視点を取り入れるための重要な一歩と言えます。本記事では、この調査から明らかになった、現代のプロフェッショナルたちが抱くAIへの期待と葛藤、そして仕事の未来について解説します。


Anthropic Interviewerのインタビュー画面

Anthropic Interviewerのインタビュー画面


大規模定性調査の壁を壊す「Anthropic Interviewer」

従来、ユーザーの深い洞察を得るための「定性調査(インタビュー)」は、時間とコストの制約から少人数に限られるのが一般的でした。一方、大人数を対象にできる「定量調査(アンケート)」では、個人の詳細な文脈や感情の機微を捉えることは困難です。この「規模」と「深さ」のトレードオフを解消するために開発されたのが、Anthropic Interviewerです。このツールは、同社のAIモデルであるClaudeを活用し、人間が設計した調査計画に基づいて、数千人規模の相手と1対1の対話型インタビューを自動で行うことができます。

Anthropic Interviewerは、まず「計画(Planning)」フェーズで調査の全体的な目的を理解し、具体的な質問フローを作成します。次に「インタビュー(Interviewing)」フェーズで、実際にユーザーと対話し、回答に応じて柔軟に質問を掘り下げます。最後に「分析(Analysis)」フェーズで、膨大な対話データをAIが読み解き、共通するテーマや洞察を抽出して人間の研究者に提示します。これにより、研究者は数千人の「生の声」を、あたかも全員と直接話したかのように分析することが可能になります。


Anthropic Interviewerのインタビュー実施・分析プロセス概要図

Anthropic Interviewerがインタビューを実施・分析するプロセスの概要図。


Anthropic Interviewerの対話形式のインタビュー画面

実際にインタビューするように会話が進んでいきます。


効率化の恩恵と裏腹の「隠れAIユーザー」化

今回の調査で興味深いのは、一般労働者(General workforce)におけるAI利用の実態です。回答者の86%が「AIは時間の節約になる」と答え、65%が仕事におけるAIの役割に満足しているという結果が出ました。多くの人が、ルーチンワークをAIに委譲し、人間ならではの判断や創造性が必要なタスクに注力したいと願っています。しかし、その一方で、職場でのAI利用には「後ろめたさ」がつきまとっているようです。

驚くべきことに、69%もの専門家が「職場でAIツールを使うことに対する社会的スティグマ(不名誉や偏見)」に言及しました。あるファクトチェッカーは次のように語っています。「同僚が最近「AIなんて大嫌いだ」と言ったとき、私は何も言いませんでした。多くの人がAIにどんな感情を抱いているか知っているので、自分のやり方は誰にも話しません」。このように、生産性を高めるためにAIを活用しながらも、周囲の反発を恐れてその事実を隠す「隠れAIユーザー」とも言える状況が浮き彫りになりました。


一般労働者が語ったトピック傾向を示すグラフ

一般労働者(General workforce)が語ったトピックの傾向です。右に行くほど楽観的、左に行くほど悲観的な内容を示します。


クリエイターと科学者が抱える「期待と葛藤」のアンビバレンス(相反する感情)

専門職に目を向けると、より複雑な心理が見えてきます。クリエイター(作家、アーティストなど)のグループは、AIを生産性向上のためのツールとして積極的に取り入れていますが、そこには深い葛藤があります。彼らは、AI利用に対する同業者からの批判や、将来的に自分たちの仕事が経済的に立ち行かなくなることへの不安を抱えながら、それでも背に腹は代えられない状況でAIを利用しているのです。「AI小説は技術的に素晴らしいかもしれないが、人間だけが織りなせる深いニュアンスには欠ける」といった声に代表されるように、自身のアイデンティティと効率化の間で揺れ動いています。


クリエイターが語ったトピック傾向を示すグラフ

クリエイター(Creatives)が語ったトピックの傾向です。


一方、科学者たちは「慎重なパートナーシップ」を求めています。彼らはAIに対して、仮説の生成や実験の設計といった研究の核心部分を任せることにはまだ懐疑的です。現状では、論文の草稿作成やコードのデバッグといった、補助的なタスクに利用を限定しています。「AIがハルシネーション(もっともらしい嘘)を起こさず、正確に情報を要約してくれれば助かるのだが、今はまだ信頼しきれない」という経済学者のコメントが示す通り、科学の厳密性が求められる現場では、AIへの信頼構築がまだ途上段階にあることがわかります。


科学者が語ったトピック傾向を示すグラフ

科学者(Scientists)が語ったトピックの傾向です。


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理想は「相棒」、現実は「代行」? データが暴くAI利用の認識ギャップ

今回の調査でさらに興味深い発見がありました。私たちが「AIをどう使っているつもりか」という主観と、「実際にどう使っているか」という客観データの間に認識のズレが存在することです。

Anthropicは、インタビューによる自己申告データと、実際の対話ログに基づく「利用実態データ(Economic Index)」を比較分析しました。その結果、ユーザーは自身の利用法の65%を、人間の能力を補強する「拡張(Augmentation)」であると回答しました。

しかし、実際のログデータを分析すると、「拡張」としての利用は47%にとどまり、逆にAIに作業を代行させる「自動化(Automation)」が約半数の49%を占めていたのです。つまり、私たちは自分が認識している以上に、実際にはAIに仕事を「丸投げ」しているという実態が浮き彫りになりました。

このギャップは、私たちがAIと向き合う際の深層心理を映し出しています。多くのプロフェッショナルは、仕事の主導権はあくまで自分にあり、AIはそれをサポートする「良き相棒」であってほしいと願っています。そのため、無意識のうちにAIへの依存度を低く見積もり、自身の主体的関与を過大評価するバイアスがかかっているのかもしれません。

この「主体性の幻想」とも言える現象は、AIが単なるツールを超えて業務に浸透していく過程で、私たちが自身の職業的アイデンティティをどう保とうとしているかを示す重要なシグナルです。AIに任せる領域が増えていく「現実」と、人間中心でありたいと願う「理想」。この狭間で、私たちの働き方は静かに変化しつつあるのです。


自己申告と実際の利用データにおけるAI利用目的の乖離を示す図

自己申告(上段)と実際の利用データ(下段)における、AI利用目的が乖離していることがわかります。


AIと人間が織りなす「新たな社会契約」へ向けて

今回の調査結果は、AI技術の進化スピードと、それを受け入れる社会や個人の心理的な適応スピードの間にギャップがあることを示唆しています。多くの人がAIによる効率化の恩恵を受けつつも、職の喪失やアイデンティティの危機といった将来への不安を完全には払拭できていません。

しかし、全体として見れば、人々はAIを拒絶しているわけではなく、むしろ「面倒な作業を肩代わりしてくれるパートナー」として、あるいは「人間の能力を拡張するツール」として、AIとの適切な距離感や役割分担を模索しています。

Anthropic Interviewerのようなツールが登場したこと自体が、AI開発の新たなフェーズを象徴しています。これまでは技術的な性能向上が優先されがちでしたが、今後は「ユーザーがどう感じ、何を考えているか」という人間中心のフィードバックを、大規模かつ迅速に得られるようになるでしょう。現在、インタビューはAIに代替されない人間の仕事として残っていますが、近い将来、AIがインタビュアーになるのかもしれません。


この記事の監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。

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