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AI活用が「常識」となるも利益に繋がらぬ壁、その突破口となるトップの「本気度」

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AI活用が「常識」となるも利益に繋がらぬ壁、その突破口となるトップの「本気度」
星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター

星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター

はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。

2025年11月5日、マッキンゼー・アンド・カンパニーがAIの導入と活用に関する最新のグローバル調査「The state of AI in 2025: Agents, innovation, and transformation(2025年のAIの現状:エージェント、イノベーション、変革)」の結果を公開しました。この調査は、同社のAI部門によってまとめられ、1,993人のビジネスリーダーからの回答(2025年6月~7月実施)に基づいています。

生成AIの登場から約3年が経過した今、企業がAIとどう向き合っているのかを調査したものです。その結果、企業におけるAIの利用率は88%に達して、今や「常識」となった一方で、多くは実験段階に留まっているということがわかりました。企業全体の収益性向上といった本格的な価値創出には至っておらず、いわば「成長痛」を抱えている姿が浮かび上がります。


マッキンゼーのAI調査レポート

マッキンゼー・アンド・カンパニーがAIについて調査したレポートを公開しました。

AI導入は「常識」へ、しかし「規模の壁」は依然として厚い

今回の調査で最も目立つのは、AI利用の急速な普及です。自社でAIを少なくとも1つのビジネス機能で定常的に使っている企業は88%に達し、前年の78%から10ポイントも増加しました。生成AIが普及して以来、AIはもはや一部の先進企業だけのものではなく、あらゆる現場で試され、利用される段階に入ったことがわかります。

この傾向は、AIを複数のビジネス機能で利用する動きにも表れています。回答者の半数(51%)が「3つ以上の機能でAIを使用している」と答えており、活用の幅が着実に広がっています。特に、メディア&テレコムや保険、テクノロジー業界で導入が進んでいます。


AIと生成AIの導入率グラフ

AIの導入率は88%、生成AIの利用率も79%に達しています。


生成AIに続き、次に注目されているのが「AIエージェント」です。AIエージェントは、単に指示に応えるだけでなく、自ら計画を立てて複数のタスクを自律的に実行できるシステムを指します。

回答者の23%は既にAIエージェントを使っていると答えています。しかし、その実態はまだ限定的で、多くは1つか2つの機能で展開しているに過ぎません。全ビジネス機能を見渡しても、AIエージェントを本格展開している割合は10%未満でした。

導入が比較的進んでいるのは、IT部門のサービスデスク管理や、ナレッジマネジメント部門でのリサーチといった用途です。業界別では、テクノロジー、メディア&テレコム、ヘルスケアが先行しています。

マッキンゼーのシニアフェローであるMichael Chui氏は、「AIエージェントへの期待は大きいですが、その可能性と現場の現実との間にはまだギャップがあります。活用するには多大な努力が必要です」と指摘しており、実用化には慎重なプロセスが求められそうです。


AIエージェントの活用状況

AIエージェントを本格活用している割合は10%以下でした。

価値創出の課題:イノベーションは進むが、利益への貢献は限定的

AI導入は広がっていますが、企業全体の収益性にどれだけ貢献しているかという点では、多くの企業が課題を抱えています。企業全体のEBIT(利払い・税引き前利益)への影響を尋ねたところ、「何らかの影響がある」との回答は39%に留まりました。

さらに、影響があると答えた企業の大半が、その貢献度を「5%未満」としており、AI投資がまだ企業全体の業績を大きく動かすレベルには至っていないことがわかります。

しかし、収益性という直接的な指標以外では、AIは着実に成果を上げています。64%がAIによって「イノベーションが向上した」と回答したほか、約半数が「顧客満足度」や「競争上の差別化」が改善したと報告しており、AIがビジネスの質的な変化に役立っていることは確かです。

個別の利用シーンで見れば、コスト削減や収益増といった具体的な成果も出ています。コスト削減効果が大きいのは、ソフトウェアエンジニアリング、製造、IT部門です。一方で、収益増への貢献が最も大きいのは、マーケティング&セールス、戦略&コーポレートファイナンス、製品&サービス開発分野でした。

「多くの企業はツールを展開していますが、ユースケースの製品化、AI中心の業務フロー再設計、拡張可能なプラットフォーム構築といった、価値を生み出すために必要なステップがまだ十分ではありません」とマッキンゼーのシニアパートナーAlex Singla氏は分析しています。


AIが組織の指標に与えた影響のグラフ

AIの使用が過去1年間で、組織のさまざまな指標に与えた影響のグラフです。

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ハイパフォーマーの条件:効率化を超え「変革」を目指す

今回の調査では、自社のEBIT(利益)の5%以上がAIによるもので、AIから「重大な価値」を得ていると回答した企業群のことを「AIハイパフォーマー」と定義しています。回答者の約6%に当たります。多くの企業がAIの価値創出に苦しむ中、彼らは何が違うのでしょうか。調査結果は、その違いを「目的意識」と「実行力」にあると示しています。

まず、AI導入の目的として、80%の企業が「効率化」を挙げています。これはハイパフォーマーも同じです。しかし、ハイパフォーマーは効率化に留まらず、「成長」や「イノベーション」も効率化と並ぶ重要な目的として設定しています。彼らはAIを単なるコスト削減ツールではなく、ビジネスを根本から変えるきっかけと捉えているのです。

実際、ハイパフォーマーは、AIで自社のビジネスに「変革的な変化」をもたらそうとする意識が、他社の3倍以上高いという結果が出ています。そして、その変革を実現するために、「ワークフローの再設計」という具体的なアクションを起こしているのです。ハイパフォーマーの多くは、AI導入に合わせて既存の業務プロセスを見直し、再設計に着手しています。

興味深いのは、リスクへの姿勢です。ハイパフォーマーは、知財侵害や規制コンプライアンスといったAI関連のマイナス面を、他社よりも多く報告しています。これは、彼らがより野心的で重要な領域でAIを活用しているため、発生しうるリスクを敏感に察知し、積極的に管理・軽減しようと努めている証拠と言えます。

マッキンゼーのシニアパートナーであるAlexander Sukharevsky氏は、「測定可能な結果を出すには、イノベーションと変革を原動力とした、大胆な目標の追求が必要です」と述べています。


ハイパフォーマーのAI導入目的

ハイパフォーマーはAIを成長やイノベーションのために導入しています。

経営トップの「本気度」と価値実現を支えるマネジメント実践

AI活用の成果は、現場の努力だけで決まるものではありません。調査結果では、ハイパフォーマーのAI活用が、経営リーダーによって強力に支持されていることが明らかになりました。ハイパフォーマーは、自組織のシニアリーダーがAIイニシアチブに対するオーナーシップとコミットメントを明確に示していると「強く同意する」割合が、他の企業の3倍にものぼります。

さらに、こうしたリーダーたちは、自らAIの利用を実践して見せるなど、AI導入を積極的に推進することに関与している割合も高いのです。トップが「AIは重要だ」と口にするだけでなく、自ら使い、本気で導入を主導する姿勢が組織全体に伝播し、変革の推進力となっています。

リーダーのコミットメントに加え、ハイパフォーマーはAIから価値を実現するためのマネジメントにも積極的です。例えば、AIモデルの出力が正確性を担保するために、いつ、どのように人間の検証を必要とするかを定めた「明確なプロセスの定義」です。

この他にも、アジャイルな製品開発体制、人材戦略、AIをビジネスプロセスに組み込む仕組み、AIソリューションのKPIの追跡など、マッキンゼーが「Rewired」リサーチで提唱する6つの側面(戦略、人材、運用モデル、技術、データ、導入・普及)に沿った実践が、AIによる価値創出に重要なポイントとなります。

成果を出す組織は、当然ながらAIスキルへの投資も惜しみません。ハイパフォーマーの3分の1以上が、デジタル予算全体の20%以上をAI技術に充てていると回答しています。豊富なリソースが、AI技術をビジネス全体にスケールさせる原動力となっているのです。

事実、ハイパフォーマーの約4分の3がAIを「スケールさせている」または「スケールさせた」と回答しているのに対し、他の組織ではその割合は3分の1に過ぎません。投資が成果を生み、成果がさらなる投資を呼ぶという好循環が、ハイパフォーマーの地位を揺るぎないものにしています。

一方で、AIの普及はリスクと雇用の問題も浮き彫りにします。雇用への影響については、見方が分かれています。過去1年間では「AI導入による従業員数の変化はほとんどない」という回答が多数派でしたが、今後1年間については「減少する」との予測が中央値で17%から30%へと増加しています。特にハイパフォーマーは、従業員数の「大幅な減少」または「大幅な増加」のいずれか、意味のある変化を予測する傾向が強いです。

これは、彼らがAIによって業務を根本的に再定義していることの裏返しとも取れます。同時に、ソフトウェアエンジニアやデータエンジニアといったAI関連人材の採用は、企業規模を問わず活発に続いています。

リスク管理についても、取り組みが一般的になってきました。2022年には平均2つだったAI関連リスクへの対策が、現在は平均4つに増加しています。興味深いことに、ハイパフォーマーはAIのユースケースを他社の2倍も展開しているためか、知的財産権の侵害や規制遵守といったネガティブな事象を経験する割合も高いのです。しかし、ハイパフォーマーは同時に、より多くのリスクに対して保護策を講じる努力を重ねています。


AIによる従業員数の変化予測

従業員が減少すると予測した人は32%、変化なしと予測した人は43%、増えると予測した人は13%という結果になりました。

AIの真価を引き出す「変革」への道筋

今回の調査で、AIの利用が一般的になった一方、その真価が発揮されるのはまだこれからであることも見えてきました。多くの組織は依然として、実験段階から全社的なスケール展開への移行に苦労しており、組織の一部で価値を生み出してはいても、企業全体の財務的インパクトにまでは至っていないのが実情です。

そうした中、AIハイパフォーマーたちの経験から、進むべき道が見えてきます。AIは組織を変革し、ワークフローを再設計し、イノベーションを加速するための触媒なのです。AIエージェントを含むツールが今後さらに進化し、企業のケイパビリティが成熟していくにつれて、AIを企業活動により深く組み込む機会が広がります。AIを単なるツールとして「使う」のではなく、AIと共に組織を「変える」という覚悟こそが、企業が新たな価値を獲得し、競争優位を築くための鍵となるでしょう。


この記事の監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修

ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。

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