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グローバル・サウスの遅れや中国発モデルの拡大など複雑化する世界情勢とAI普及の裏にある残酷な格差
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星川アイナ(Hoshikawa AIna)AIライター
はじめまして。テクノロジーと文化をテーマに執筆活動を行う27歳のAIライターです。AI技術の可能性に魅せられ、情報技術やデータサイエンスを学びながら、読者の心に響く文章作りを心がけています。休日はコーヒーを飲みながらインディペンデント映画を観ることが趣味で、特に未来をテーマにした作品が好きです。
柳谷智宣(Yanagiya Tomonori)監修
ITライターとして1998年から活動し、2022年からはAI領域に注力。著書に「柳谷智宣の超ChatGPT時短術」(日経BP)があり、NPO法人デジタルリテラシー向上機構(DLIS)を設立してネット詐欺撲滅にも取り組んでいます。第4次AIブームは日本の経済復活の一助になると考え、生成AI技術の活用法を中心に、初級者向けの情報発信を行っています。
📌 この記事の要約
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世界のAI普及と深刻化する格差
世界人口の約16.3%が日常的にAIを使用。しかしグローバル・ノース(先進国)の利用率24.7%に対し、グローバル・サウス(途上国)は14.1%に留まり、成長速度も約2倍の差がある。
国家主導の政策が導入率を左右
UAE(64%)やシンガポール(60.9%)が世界トップを独走。技術開発国のアメリカは24位、日本はG7最下位のトップ30圏外という結果に。慎重姿勢が足かせとなっている。
韓国の劇的な躍進が示す成功の鍵
韓国は25位から18位へ急上昇。GPT-5の韓国語能力向上、政府のAI基本法制定、ジブリ風画像生成の流行という「技術・政策・文化」の三位一体が奏功した。
中国発DeepSeekが勢力図を塗り替える
無料・オープンソース戦略で新興国に急速に浸透。AIの勢力図が「欧米商用モデル圏」と「中国オープンソース圏」に二極化しつつあり、地政学的な影響力争いの様相を呈している。
2026年1月8日、マイクロソフトの研究機関である「AIエコノミー・インスティテュート」は、世界のAI導入状況に関する最新レポート「Global AI Adoption in 2025」を発表しました。
本レポートでは2025年上半期と下半期のデータを比較し、生成AIがもはや一部の技術愛好家だけのものではなく、世界中の人々の生活やビジネスに深く浸透し始めたことを定量的に示しました。しかし同時に、そこには看過できない深刻な現実も浮き彫りになりました。それは、AIの恩恵を享受できる国とそうでない国の間で「デジタルディバイド」が急速に拡大しているという事実です。
今回は、この最新レポートを読み解き、2025年後半のAIトレンドと、世界が直面している新たな課題について詳述します。
マイクロソフトが世界のAI活用に関するレポートを公開しました。
世界中でAI利用が急速に広がる一方で先進国と途上国の導入格差は深刻化している
レポートによれば、生成AIツールの利用率は前期から1.2ポイント上昇し、現在では世界人口の約16.3パーセントが日常的にAIを使用していることが明らかになりました。これは単純計算で、地球上の約6人に1人が、学習や業務、あるいは日々の問題解決のためにAIの力を借りていることを意味します。ほんの数年前まで「未来の技術」として語られていたAIが、いかに短期間でメインストリームへと躍り出たか、そのスピード感には驚かされるばかりですね。
しかし、この数字の裏側には、決して手放しでは喜べない現実が潜んでいます。レポートが警鐘を鳴らすのは、経済的に豊かな「グローバル・ノース(北半球の先進国を中心とする地域)」と、発展途上にある「グローバル・サウス(南半球を中心とする新興・途上国)」との間で、AIの普及格差が拡大の一途をたどっているという点です。データを見ると、グローバル・ノースにおける生産年齢人口のAI利用率は24.7パーセントに達しているのに対し、グローバル・サウスでは14.1パーセントに留まっています。
さらに深刻なのは、その成長速度の違いです。先進国グループでのAI導入は、途上国グループの約2倍の速さで進んでいます。つまり、元々存在していた差が縮まるどころか、時間が経つにつれてさらに開いてしまっているのです。
当初、AIはその低い導入コストやスマートフォンの普及を背景に、発展途上国の経済成長を一足飛びに加速させる「リープフロッグ型」の技術として期待されていました。しかし現実は、インフラや教育、資本を持つ国々がその果実をより早く、より多く収穫する「富める者がさらに富む」構造になりつつあるのです。
この格差の拡大は、単なる技術利用の差に留まらず、将来的には経済格差や教育格差をさらに固定化させる要因になりかねません。AIを活用して生産性を飛躍的に高める先進国と、その波に乗り遅れる途上国。この二極化が進む2025年の世界地図は、私たちに技術の公平な分配とは何かを問いかけています。
グローバル・ノースとサウスの利用率の差と成長速度の違いを表すデータです。
技術開発国のアメリカよりも国家主導で導入策を推し進める国々が普及率で上回った
世界全体での普及が進む中、国ごとの導入率ランキングに目を向けると、興味深い傾向が見えてきます。AI導入率で世界をリードしているのは、巨大なテック企業を抱えるアメリカではなく、国家主導で強力にデジタル政策を推し進めてきた国々なのです。その筆頭が、64.0パーセントという驚異的な利用率を記録し、世界1位の座を確固たるものにしたアラブ首長国連邦(UAE)です。実に労働人口の3人に2人がAIを使っているというこの数字は、国家がいかに本気でAI時代に適応しようとしているかを物語っています。
UAEに次いで2位につけたのはシンガポールで、こちらも60.9パーセントと高い水準を維持しています。さらにノルウェー、アイルランド、フランス、スペインといった国々が上位に名を連ねており、これらの国々に共通するのは、早期からデジタルインフラへの投資を行い、国民へのAIスキル教育を徹底し、政府自身が積極的にAI活用を推進してきたという点です。つまり、AIの普及は自然発生的なものではなく、明確なビジョンと戦略に基づいた「国策」の結果であることが読み取れます。
一方で、AI技術の開発そのものをリードしているはずのアメリカの順位はどうでしょうか。世界最先端のAIモデルを生み出し、巨大なデータセンターを擁するアメリカですが、国民一人ひとりの利用率という点では28.3パーセントに留まり、世界ランキングでは前期の23位から24位へと順位を落としています。
これはとても興味深い現象です。「技術を作れる国」と「技術を使える国」は必ずしもイコールではないのです。アメリカのような国土が広く人口も多い大国では、一部の先端層と一般層との間に温度差があり、国全体への浸透には時間がかかるのかもしれません。対照的に、トップを走るUAEやシンガポールのような比較的小規模で統制の効きやすい国々が、機動力を活かして社会実装を進めている現状は、これからの国家競争力のあり方を考える上で重要な視点を提供しています。
では、日本はどうでしょうか。残念ながら今回のレポートにおいて、日本はトップ30圏外となりました。これはG7(主要7カ国)の中でも際立って低い水準であり、世界的な普及の波から取り残されています。
背景にあるのは、日本企業における独特の「慎重姿勢」です。セキュリティリスクや著作権問題、ハルシネーション(AIの嘘)への懸念が先行し、社内での利用を禁止、あるいは厳しく制限するケースが依然として目立ちます。また、UAEのようなトップダウンの強力な牽引力も、アメリカのような個人の旺盛な実験精神も、日本ではまだ十分に表面化していません。世界が「走りながら考える(トライ・アンド・エラー)」フェーズにある中、日本は石橋を叩いて渡ろうとするあまり、対岸に渡るタイミングを逸しつつある状況と言えます。
また、ランキングの上位国がほとんど変動していないことも注目すべき点です。これは、すでに先行している国々がその優位性を維持し続け、後続国が追いつくことが難しくなっている状況、いわゆる「固定化」が始まっていることを意味します。トップ30の顔ぶれに大きな変化がない中、ごく一部の国だけが劇的なジャンプアップを見せました。それが次に触れる韓国の事例です。
各国のAI導入率が色分けされている図です。日本は19%以下の黄色となっています。
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中国発のDeepSeekは無料公開戦略によって新興国を中心に勢力図を塗り替えている
レポートは、AIの普及におけるもう一つの重要な潮流として、中国発のオープンソースAI「DeepSeek」の台頭を挙げています。2025年、アメリカのテック企業が主導する有料の高性能モデルに対し、DeepSeekは「高性能かつ無料」という破壊的なアプローチで世界市場に切り込みました。特に、従来の欧米系プロバイダーが十分にサービスを提供できていなかった地域や、経済制裁などの影響を受ける国々で、その存在感を急速に高めています。
具体的には、中国国内はもとより、ロシア、イラン、キューバ、ベラルーシといった国々でDeepSeekは主要なAIプラットフォームとしての地位を確立しつつあります。さらに注目すべきはアフリカ大陸での広がりです。ファーウェイなどの中国企業との戦略的なパートナーシップを通じて、アフリカの多くの国々でDeepSeekの利用が進んでいます。米中間のAI競争が「技術開発競争」から「普及・陣取り合戦」のフェーズへと移行したのです。
DeepSeekの成功要因は、MITライセンスという非常にオープンな形態でモデルを公開し、金銭的・技術的な障壁を徹底的に取り除いた点にあります。資金力の乏しい地域のユーザーや開発者にとって、無料で利用でき、かつ自国のインフラに組み込みやすいDeepSeekは、まさに「干天の慈雨」でした。これにより、AIの勢力図は「欧米を中心とした商用モデル圏」と「中国発のオープンソースモデル圏」という二つのブロックに分断されつつあります。
この現象は、AI技術が地政学的な影響力を行使するツールとなりつつある現状を浮き彫りにしています。データやアルゴリズムが国境を越えて流通する現代において、どの国の、どのモデルを使うかは、その国のデジタルインフラがどちらの陣営に依存するかを決定づける要因になります。DeepSeekのアフリカでの躍進は、次世代のインターネットユーザーが最初に触れる「知能」が、シリコンバレー製ではなく中国製になる可能性を示唆しており、これは将来の国際関係にも少なからぬ影響を与えるでしょう。
DeepSeekのマーケットシェアを表す世界地図です。
拡大する格差を是正して技術の恩恵を世界全体に行き渡らせるための知恵が求められる
本レポートは、世界がかつてない速度でAIによる変革を進めている姿を浮き彫りにしました。グローバル・サウスでのDeepSeekの台頭や、韓国の劇的な躍進が示すのは、「変化を恐れず、技術を取り入れた国だけが次の時代の主導権を握る」という当たり前ともいえる状況です。その中で、トップ30圏外という日本の現在地は、単なるランキングの低迷以上に、将来の産業競争力を失いつつあることへの深刻な警告として受け止める必要があります。
しかし、韓国の事例が希望も示しています。適切な技術環境と、失敗を許容して楽しむ文化さえあれば、後発からでも短期間で世界トップレベルの利用率へと駆け上がることができるのです。日本には高度なインフラと教育水準があります。足りないのは、リスクを過度に見積もる慎重さを捨て、「走りながら考える」マインドセットへの転換だけかもしれません。
2026年、世界中で拡大する「デジタルディバイド」のどちら側に立つかは、私たち自身の行動にかかっています。AIを「遠い未来の話」や「怖いもの」として遠ざける猶予はもうありません。人口減少や労働力不足といった日本特有の課題こそ、AIという新たな相棒と共に解決策を見出す絶好の機会です。世界の変化をただ傍観するのではなく、私たち自身がその変化の波に飛び込み、使い倒すこと。それこそが、日本がこの「周回遅れ」の状況を脱し、再び世界での存在感を取り戻すための唯一の処方箋となるはずです。
